渡辺さん、こんにちは。

時間反転がわかりません。

まず、古典的な1粒子の系(電磁場なし)はかんたんです。時刻を位置に写す関数の時間反転は

Θ[X](t)=X(t)\mathrm{\Theta}\left[X\right](t)=X\left(-t\right)

です。また位置・正準運動量面の時間反転は

θ(x,p)=(x,p)\theta\left(x,p\right)=\left(x,-p\right)

です。この二つの定義は(正準運動量が速度と違うことを除いて)私たちが時間反転という言葉を聞いて自然に思い浮かべるものと一致します。また、一つ目は粒子の動きを撮影した動画を巻き戻し再生したものとも一致します。

しかし、電磁場が加わると難しくなります。なぜならば、電磁場は見えないからです。この場合の時間反転の定義がわかりません。

ΘE[E](x,t)=E(x,t)\Theta_\mathrm{E}[E]\left(x,t\right)=E\left(x,-t\right)
ΘB[B](x,t)=B(x,t)\Theta_\mathrm{B}[B]\left(x,t\right)=-B\left(x,-t\right)

が「定義」なのでしょうか。この「定義」を「自然だ」と思うことはできるのでしょうか。あるいは「時間反転対称性が成り立ってほしい」というお願いをかなえるために恣意的に定義したのでしょうか。

また、量子力学での時間反転もよくわかりません。

これらのことが新しい教科書に載っていると幸いです。

お忙しい中、長い文章を送ってしまい申し訳ありません。解説をご検討いただけますと幸いです。

注意: 私はXで引用をされた者ではありません。

おまけ: ハミルトン形式で作用の停留条件を考えるときに、正準運動量変分の端点を固定するかどうかがわかりません。新しい本に載っているとうれしいです。(遅いリクエスト)

こんにちは。mondでのご質問ありがとうございます。

1つ目のご質問は「電磁場の時間反転に対する変換性をどう決めるか」というものですね。

『「時間反転対称性が成り立ってほしい」というお願いをかなえるために恣意的に定義した』というのは、例えば荷電粒子の運動方程式

mr¨(t)=eE(r(t),t)+er˙(t)×B(r(t),t)m\ddot{\bm{r}}(t)=e\bm{E}(\bm{r}(t),t)+e\dot{\bm{r}}(t)\times\bm{B}(\bm{r}(t),t)

が不変になるように決めるというものだと思います。すなわち、左辺は位置ベクトルの時間の2階微分なので時間反転に対して偶です。したがって右辺のそれぞれの項も時間反転に対して時間反転に対して偶となるように、電場は隅、磁場は奇となります。これだとこの運動方程式において時間反転対称性がなりたつことは「そうなるように決めたから」というだけになってしまいますね。

この恣意性を完全になくすのは難しいですが、一度このように決めると、場当たり的に定義を変えなくとも、同じ定義のもとで統一的にうまくいくことが大切です。例えば電磁場の運動方程式であるマクスウェル方程式

rE(r,t)=1ε0ρ(r,t)\bm{\nabla}_{\bm{r}}\cdot\bm{E}(\bm{r},t)=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho(\bm{r},t)
rB(r,t)=0\bm{\nabla}_{\bm{r}}\cdot\bm{B}(\bm{r},t)=0
r×E(r,t)=B(r,t)t\bm{\nabla}_{\bm{r}}\times\bm{E}(\bm{r},t)=-\frac{\partial \bm{B}(\bm{r},t)}{\partial t}
r×B(r,t)=1c2E(r,t)t+μ0j(r,t)\bm{\nabla}_{\bm{r}}\times\bm{B}(\bm{r},t)=\frac{1}{c^2}\frac{\partial \bm{E}(\bm{r},t)}{\partial t}+\mu_0\bm{j}(\bm{r},t)

も第1式,第3式は両辺が隅、第2式,第4式は両辺が奇であり、方程式としては不変になりますね。

この定義をより自然と思うには次のように考えるといいと思います。電磁場はスカラーポテンシャルおよびベクトルポテンシャルと

E(r,t)=rϕ(r,t)A(r,t)t\bm{E}(\bm{r},t)=-\bm{\nabla}_{\bm{r}}\phi(\bm{r},t)-\frac{\partial\bm{A}(\bm{r},t)}{\partial t}
B(r,t)=r×A(r,t)\bm{B}(\bm{r},t)=\bm{\nabla}_{\bm{r}}\times\bm{A}(\bm{r},t)

と結びついています。したがってスカラーポテンシャルが

Θ[ϕ](r,t)=ϕ(r,t)\Theta[\phi](\bm{r},t)=\phi(\bm{r},-t)

ベクトルポテンシャルが

Θ[A](r,t)=A(r,t)\Theta[\bm{A}](\bm{r},t)=-\bm{A}(\bm{r},-t)

と変換することと等価ですね。例えば電磁場の元で運動する荷電粒子のハミルトニアンが

H(r,p,t)=12m(peA(r,t))2+eϕ(r,t)H(\bm{r},\bm{p},t)=\frac{1}{2m}\big(\bm{p}-e\bm{A}(\bm{r},t)\big)^2+e\phi(\bm{r},t)

となることを考えると、ベクトルポテンシャルAは運動量pと、スカラーポテンシャルφはエネルギーEと同じ変換をすることからわかります。この関係は時間反転に限らず、あらゆる変換に適用できます。

荷電粒子のハミルトニアンが上記のようになるのは、ラグランジアンをゲージ不変になるように決めた帰結です。

少し先の話題になりますが、場の理論ではゲージ場Aは接続として導入され、共変微分

Dμ=μieAμD_\mu=\partial_\mu-ieA_\mu

に現れます。ただしμ=0は時間、μ=1,2,3は空間成分に対応し、Aの0成分はスカラポテンシャル、空間成分はベクトルポテンシャルです。また、iは虚数単位です。ここから、Aの変換性が基本的に偏微分の変換性と同じであることがわかります。ただし時間反転は複素共役を含むため、iの分だけ符号が変わることに注意が必要です。

2つ目のご質問ですが、ハミルトン形式の作用の停留条件を考えるときには、正準運動量の端点は固定しません。これはについては
https://mond.how/ja/topics/p6o7q7djdszcm61/qh9rknvzsbdswrd
の[3]をご覧ください。

Haruki Watanabeさんが質問に回答しました | mond

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