経済学部や経営学部,商学部に入るべきか,理学部に入るべきか,という御質問ですね。どちらでも良いと思います。わりと生々しく経営に関わることを教えるのは,「大学院経営学研究科」とか「大学院管理会計研究科」という名前の付いている「ビジネス・スクール」や「会計大学院」などの大学院修士課程です。学部教育は,そういう高度職業人専門教育に堪えられる基礎体力を鍛える場所です。

 経済学部や経営学部や商学部は,どのように考えれば企業を一般的に理解することができるかを教える場所です。理学部は,宇宙の理を教える場所で,一見,企業と遠そうですが,経済学部や経営学部や商学部で習うことのうち,分析的な話は数学に頼りますので,学部のうちに数学的なしごきを受けておくことは,修士課程に進んで企業を学ぶ上で大きな武器になるでしょう。

 一橋大学は,戦前,東京高等商業学校という名前でしたが,そこでの教育はビジネスに直結したものでした。最終学年になると,学生は企業にがっつりインターンに派遣され,その企業で学んだケースを論文にして提出すると卒業が認められるという,ごついケースメソッドが採用されていました。この貴重な卒業論文は今でも一橋大学附属図書館に保存されており,この優れた卒論のおかげで,私たちは明治時代のビジネスの生の姿を知ることができます。

 が,戦前の教育制度において,帝国大学や高等商業学校は,戦後の教育課程の学部後期・修士課程に相当する課程です。戦後の学部前期に相当する旧制高等学校等で基礎体力をしごかれまくった後の,学部後期・修士レベルの専門教育であったわけです。現在では,この役割は大学院修士課程が担っています。一橋大学ならば,大学院経営管理研究科の役割が東京高等商業学校のそれを継承しているのだと思います。

 日本に限った話ではなく,昔,スタンフォード大学に客員で滞在していたときに,文学部系の学科の授業も聴講させていただいたのですが,履修学生には,いかにも富裕そうな白人,次いでアジア系が多かった記憶があります。富裕層の学び方としては,学部の間はともかく,「学ぶこと」を学んで,金の稼ぎ方は修士課程で学ぶということなのでしょう。文系学科が本籍で数学的素養も身につけたい学生は,理系科目をたくさん取って数学の学士も取得していました。

 要するに,学部の間には,何でも良いから「学ぶこと」そのもの,学ぶ根性と体力を身につけることが大切で,職業に直結する教育は修士課程で受ければ良いのです。文学部で難解な書物を読む学力と根性を鍛えられていれば,それが修士課程で役に立つでしょうし,理学部で数学を鍛えられていれば,ビジネススクールのデータサイエンスの授業など物凄く楽でしょう。学部はとりあえず,自分が心から好きで,それゆえに根性出して頑張れそうな学部を選んで基礎体力を鍛え,修士課程を選ぶときに生々しい現実と向き合えば良いと思います。ですので,結論としては,理学部,大いに結構と思います。

 昔、慶應義塾大学大学院商学研究科の非常勤講師として「組織の経済学」を教えていたことがあります。ある年の学生はたった一人で、既に会計士として会計事務所を開いている、つまり経営者の方でした。輪読の授業でしたから、その方は、毎週、組織の経済学の教科書の1章をまとめて報告しなければなりません。激務のはずの彼は、それでも1学期間、やり遂げました。汗をかきながら定刻に教室に駆け込んできて、授業が終わると名残惜しそうに、しかし慌ただしく帰って行く姿を懐かしく思い出します。そのように、経営者になってからでも、必要な知識を仕入れたかったら、大学院に入って身につけるという手もあります。

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