専門に近いので,ちゃんと説明できなければならないのですが,これはなかなかむつかしい問題を含んでおり,説明は難しいところです.金星の大気の形成の詳細はまだよくわかっていません.現在の金星の大気が現在の金星の状態を反映しているのか,金星の初期に形成されたいわば化石としての大気なのかについても,意見が分かれます.その説としては,かつて金星には水があったが,地球より太陽に近く,表面が高温で水が蒸発してしまった.海が存在できなかったので大気中の二酸化炭素(CO2)が炭酸塩鉱物に固定されずに温室効果が加速したという説です.今の金星の大気は,主にCO2と窒素(N2)からなります.CO2とN2の量は地球の炭酸塩鉱物に固定されたCO2量を含めると地球とほぼ同等です.CO2の厚い大気の存在は,確かにこのように説明されています.よくわかっていない点は,このCO2の厚い大気がいつどのように形成されたのかです.金星が地球と全く同じ総化学組成をもっていたとすると,地球のように初期のある時期には,地球に存在する程度の水(H2O)を持っていたはずです.しかし,現在の金星大気に水はほとんど存在しません.それでは,水はどうなったのかというのも,重要で難しい問題です.大気中の水蒸気は,上層の大気で太陽による紫外線で水素(H2)と酸素(O2)に分解されたと考えられています.水素は軽いので金星から宇宙空間に散逸します.金星大気中の重水素(D)と水素(H)の比(D/H)が地球の海に比べて大きいことも,より重い重水素(D)よりも軽い水素(H)がより散逸したということで良く説明できます.問題は,酸素がどうなったのかです.これについては,いろいろな提案があります.酸素も太陽風によって水素のように宇宙に散逸したという考え方と,高温の地表の岩石と反応して酸化鉄のように鉱物として金星の地表や地殻にとりこまれたという説があり,決着はついていません.(1,2)

灼熱の金星ですが,大気中には,酸素はほとんどありませんが,上層大気には地球の表面に近い気温と気圧の領域があります.ここは生命を維持できる環境に近く,人間の生存圏になり得るという提案もあります(3).

参考文献:

(1) https://www.wakusei.jp/book/pp/2004/2004-1-02/2004-1-02.pdf

(2) https://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~keikei/enlighten/atmos.html

(3) https://wired.jp/2015/01/12/havoc/

1 year ago

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