まず私の「純文学」の定義をはっきりさせておきましょう。
それは「文章を使った芸術」です。
では芸術とはなにか。
辞書に載っている言葉を紹介しても仕方ないので、こちらも私なりの定義を伝えます。
ずばり「新しい表現」。これです。
快不快、人気不人気など、世の中の尺度には全く関係なく、新しいものであればそれは芸術だと思っています。なので「理解不能なほど芸術性が高い」というのが私なりの芸術の尺度になります。
しかしこの尺度には問題点があります。
お分かりかもしれませんが、「私自身が現在地球に存在する芸術を全部知らない問題」です。
つまりそれが本当に芸術性の高い(新しい)ものなのかどうかが正確には分からないのです。
ということで、結局は私が勝手に「なにこれ?!めっちゃ新しい!!凄っ!!!!!」となった作品が芸術作品、つまり純文学として価値が高いことになります。
また、新しい表現であることが条件なので、既存のエンタメで大人気な「恋愛」「エロ」「暴力」「グロ」「勧善懲悪」といった要素を主題にしているものは純文学とはしません。
ではこの基準でいくつか紹介していきましょう。
①『ミシンと金魚』永井みみ
知る人ぞ知る、すばる文学賞受賞作。
「本当は作家になりたかった」から始まる鳥肌が立つぐらい感動的な受賞コメントを残した永井みみ氏のデビュー作になります。本の雑誌ダ・ヴィンチでも年間ベストとして推されていることでも有名になった作品です。
認知症を患われた御婦人の目線で描かれた物語なのですが、読み心地がとてもフワフワとふくよかな感触で、他にはない体験をさせてもらえます。
読み終えたあと、言葉にはできないけれど、でもたしかに満たされた感覚を得られるのが不思議です。
②『掏摸(すり)』中村文則
日本のみならず海外でも高い評価を受けていて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙において2012年のベスト10小説に選出されています。ちなみに私はこれがどれくらい凄いことなのか知りません。無知ってやーね。
非常にダークな厳しい物語で、エンタメ寄りの内容ではあるのですが、画期的なのは“悪”の表現方法です。
まず冒頭の掏摸(すり)のシーンからして、私たち一般人のほとんどがスリなんて経験したことがないにも関わらず、文面を通して財布の感触が伝わってきます。正直、背徳的な快感があります。
また、物語のキーを担う巨悪の存在である木崎の存在感が凄まじいです。問答無用な悪の存在なのにも関わらず、これも魅了されてしまうような危うさがあります。
全体的に文章に独特のリズム感と酩酊感があって、ダークな内容にも関わらず心地良く読めてしまい、中毒みたいになります。オススメです。
③『ヘヴン』川上未映子
斜視などを理由にいじめられる少年と、貧乏で不潔であることが理由でいじめられる少女の奇妙な友情を描いた物語。
個人的に子供が酷い目に遭う物語はキツすぎて読めないのですが、これは文学の為せるわざなのか、魅入られるように読み進めてしまいました。
いじめが物語の大きなアクセントになっているので、いまどき流行りの残虐モノかと勘違いされるかもしれませんがそんなことはありません。そこはさすがの芥川賞受賞作家です。安易な面白さで物語を彩るようなことはいたしません。
繰り返されるいじめの先に迎えるラストは…必読です。
④『海辺のカフカ』村上春樹
もうこれは純文学というよりもジャンルは村上春樹、という作品です。
村上春樹の新しさはなによりもその文章表現です。これは“春樹節”とも呼ばれる「これは春樹の文章」とすぐに分かる独特さを有しています。これを他の作家が真似をしてしまうと、あまりにも村上春樹コピー感が前面に出てしまい、偽物感とチープさが際立ちます。それゆえに村上春樹作品でしか味わえないものとなってしまいました。
しかも彼はかなり寡作な作家なので、需要に対して供給があまりにも少ないため、常に新しく感じてしまう節があります。(ここらへんは完全に私の感覚の話です)
そんな村上春樹作品の中でも特に私の中で「なんじゃこりゃあ?!」という感覚が強いものが『海辺のカフカ』になります。
私自身はそこまで村上春樹ファンではないと思っているのですが、この作品に関しては妙に世界観にハマり込んでしまいました。多感な時期に多感な少年の物語を読んだからかもしれませんし、上下巻という長い物語なので思う存分物語に身を任せられたからかもしれません。この作品に関してはあらすじを読んでもなんの意味もない気がします。
それにしても純文学のオススメで村上春樹を挙げてしまうのはかなり問題があったかもしれません。
ただでさえ「純文学とはなんぞや」という命題があるくらいです。「村上春樹は純文学か?」という話題を読書家に振ってしまった日には、無限に喋り続けることでしょう。賢明な皆さんは放っておきましょう。私は愚かなので嬉々として加わります。
ということで、かなり方向性の違う4作品を選出してみました。ぜひ参考になさってください。
素敵な出会いになること、もしくは「なんじゃこりゃあ?! なんでこんなもん勧めやがった。ひろたつ◯ね!!!」となることを期待しております。どちらも間違いなく貴重な読書体験です。