すべてを投げ打って集中すれば科学技術は進歩するか。認めたくありませんが答えは出ています。「YES」。マンハッタン計画のことです。当時の量子物理学の先進国ドイツが核兵器を先に完成させてしまったらどうなるか。そのおそれがアインシュタインをはじめとする科学者を駆り立てた。政府と軍がトップクラスの物理学者を一同に集め、無尽蔵の予算をつぎこんで、わずか2〜3年で原子爆弾を完成させた。大江健三郎は『ヒロシマノート』のなかで、物理学者はこれがどんな結果をもたらすか知っていたはずなのに善のほうが勝るとでも思ったのか、という趣旨のことを書いています。私の想像ですが、彼らは核分裂が放出するエネルギーは計算できたけど、それが現実に何を起こすかを想起しなかったのでしょう。ただ単に目の前の問題がおもしろくてそれに集中した。現場はそうだったのではないでしょうか。

核兵器だけではありません。計算機だってそうですね。電子レンジに使われているマグネトロンだって、レーダーに使うマイクロ波発生装置として開発された。動機と予算を与えて尻をたたけば技術は進歩する。歴史が証明しています。

現代の人類は80年前よりも「賢く」なっているのか。倫理的により「正しい」のか。私には自信がありません。隣国が毎日のようにミサイルを撃ちこんできたとき、科学技術の軍事利用はダメと涼しい顔をしていられるのか。科学者は筋を通そうとするかもしれないが、世論はそれを許すのか。考えると眠れなくなります。

1 year ago

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Past comments by 橋本 省二
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