天体物理の分野で主に自分で書いたコードでシミュレーションをしてきた、自分の経験の中でだけで答えます。質問者が聞いているのは、数値誤差に関してだと思いますが、シミュレーションの妥当性にはもうひとつ大きな問題があります。天体物理学では、完全に正確で万能な数値シミュレーションというものは存在しません。まずは、知りたい現象をシミュレーション可能な形に近似したり簡単化する必要があります。いかにして知りたい現象の本質を残しながらシミュレーション可能な形に落とし込むのかということで、その部分で研究者の能力が問われ、研究者の個性が出ます。数値誤差に関する問題はある程度定型の問題で、知りたい現象に近い過程で解析解がある場合の再現ができるかとか、シミュレーションパラメータの収束性のチェックとか、極限をとってみるとかやり方はだいたい決まっています。また、知りたい現象に関して数値誤差が入っている場合は、シミュレーション結果の振る舞いを見ればだいたい見当がつきます。つまり、数値誤差の処理というは基本のスキルで、たとえば論文の査読では数値誤差が問題になることは少ないと思います。問題になるのは、知りたい現象をシミュレーション可能な形にする切り出し方が適切かどうかという部分が圧倒的だと思います。

私がいる東京工業大学でも宇宙科学は物理学科と地球惑星科学科の両方に関連研究室があるので、そういう質問をよく受けます。おおざっぱには、物理学科ではシンプルなロジックのもとに俯瞰的に見る傾向があるのに対して、地球惑星科学科では複雑な過程が絡んでいるものを解きほぐしていったり、俯瞰的に見るだけではなく接近して詳細に見たりします。ですが、そのような分け方にはまらない例も多いので、本人が興味を持つ研究室を探して話を直接聞いて、自分にフィットしそうな方に行けばいいと思います。ただし、「フィットしそう」という感覚もあてにならないかもしれません。私の場合は大学も３つ経験しましたが、学部は物理学科で宇宙論や中性子星、大学院は地球物理学科で地球や太陽系、助手は銀河、助教授では地球惑星科学科で太陽系と系外惑星系、教授ではアストロバイオロジーという感じで、成り行き任せで物理学っぽいものと地球惑星科学っぽいものを行ったり来たりですが、やってみたら、どちらのアプローチも面白くてはまりました。

Proxima d (地球質量の1/4, 軌道周期5日,軌道半径は地球軌道の1/30) だと地球とは違いすぎるので、まずは Proxima b (地球質量の1~2倍, 軌道周期11日, 軌道半径は地球軌道の1/20)を考えてみます。この惑星は「ハビタブルゾーン」という軌道範囲に入っていて、表面温度は液体の海が存在できる程度のマイルドなものになっていると思われます。中心星は太陽に比べて質量は1/10です。明るさは1/600程度なので、中心星のごく近傍の軌道がハビタブルゾーンになります。それだけ中心星に近いと、中心星重力による惑星の歪み（潮汐）によって、自転軸は直立し（四季はない）、自転と公転は同期して常に同じ面を中心星に向けていると推定されています。これだけでも地球の気候と全く異なるだろうと予想されますが、さらなる違いがあります。この中心星は暗いですが、紫外線やX線はそれほど弱くないので、軌道半径が小さい分、昼側には強烈な紫外線、X線が降り注いていると想像されます。でも夜側にはその危険な紫外線、X線は入射しません。この惑星には海が存在して生命も住んでいるかもしれないですが、地球のイメージとはかけ離れた世界だと思われます。Proxima d は b よりさらに中心星に近く、海は蒸発した灼熱の世界だと想像されます。

2011年に打ち上げられて、2016年に木星に到達した探査機ジュノー(JUNO)の観測によって、木星の内部の密度分布が推定されました。惑星の構造が球対称だと重力の分布も球対称ですが、その場合、惑星の内部構造がどのような分布であっても惑星の外で測定する重力は厳密に同じになってしまいます。ところが、惑星は自転によって微妙に扁平しているので、重力の分布は球対称からずれ、そのずれから惑星内部の密度分布を推定できます。ジュノーによる高精度重力測定によると、木星の中心部の氷や岩石の固体成分が集中する部分（密度が高い部分）と外側の密度が低い水素・ヘリウムガスが卓越する部分の境目がはっきりしていないことがわかりました。

これは驚くべきことで、木星や土星のような水素・ヘリウムガスを主成分とする巨大ガス惑星の標準的な形成モデルでは、固体惑星がまず成長して、後で惑星系形成当時にまわりにあったガスが流れ込み、ガス惑星の構造は中心にくっきりした固体コアがあるはずだからです。なぜ、予想した構造と違うのかについては、現在でも、活発に議論が続いています。

土星にも探査機カッシーニが到達して重力測定をしていたのですが、土星内部の推定はうまくできていませんでした。そこで、土星のリングに立つ微弱な波が注目されました。中心に高密度の固体コアがあって、密度が低いガス層が取り巻くならば、そこで微小な振動が発生して、それによる重力の微弱な振動によって、リングが波立つ可能性があります。それを精密観測することで内部の情報を引き出せます。2021年の論文ではその難しい解析に挑戦して、木星と同様に、土星も境目がぼやけたコアを持つようだという結論を導き出したました。

木星に加えて土星もぼやけたコアを持つならば、形成後にぼやけるような未知の内部進化があったか、巨大ガス惑星の形成シナリオが間違っているのかということになり、とても重要な問題を提起します。

いわゆる「UFOに乗った宇宙人」という話の発祥を調べてみると、1950年代の冷戦期にいつ核戦争で人類が滅びてもおかしくないという終末感の中でアメリカで言われるようになったという分析を見つけました。終末感の中で醸成されたストーリーというのは、ありそうだなと思います。

「ヒト型宇宙人」という概念自身が人類を生命進化の唯一の最終形という考えに基づいていると思いますが、地球の生命に限っても、共通祖先(LUCA)から生命は多様な方向に枝分かれして進化したということがゲノム解析などから確実視されていて、現在の大腸菌もたんぽぽも40億年以上とも考えられている進化の果てにあります。知性という話以前に、意識という特徴的な要素を持っていることが人類の特性であることは、そのとおりだと思いますが、それはいろいろな生命がもつ多様な特性の一つであって特別なものではないかもしれません。大腸菌のように寿命がなく、物理的な破壊を受けない限り、生命活動を続けるということもすごい特性だし、たんぽぽなど植物の環境適用力や太陽光から直接に生命活動を駆動する化学エネルギーを作れるということもすごい特性です。人類をはじめとした動物は多細胞化や大型化への進化の中で、不死を捨てて死を導入し、自分で太陽光エネルギーを変換する能力も自分の活動に必須なビタミンを生産する能力も捨てました。特性にはいろいろあるということではないでしょうか。

系外惑星とか土星の衛星のエンケラドスに生命がいたとしても、現在の我々の知識では予測不能な多様な方向性の進化を遂げいのではないかと想像されます。したがって、「ヒト型宇宙人」が人類史の中で実際に地球に飛来・墜落したという可能性は極めて低いと思います。一方で、実はすでに他の「生命」が星間塵に乗って到達したとか、情報として構成されている「生命」が電波などで到達していて、コンタクトはしたが、あまりに人類とは異なるものなのでコンタクトしたことを認識できていない可能性のほうが高いかもしれません。

大谷さんの回答に力学的な面での補足をしておきます。大谷さんが言うように、地球の自転と月の公転はリンクしていて、月が誕生した頃には地球は５時間とかで自転していたはずです。ですが、巨大衝突で月が形成されたのなければ、それほど速い自転は実現されないので、最初から現在と同じくらいの自転周期だったかもしれません。その場合は、地軸の歳差（コマの首振り運動）の周期と、他の惑星重力の影響による軌道面の傾きの変化の周期が近くなってしまう（共鳴と呼びます）ので、首振り運動をしているコマが載っている台を同じような周期で傾けるような感じになって、地軸が100万年とかで大きく変動するようになります。今の地球は地軸の傾きの変動はプラスマイナス１度くらいですが、それが数十度の変動にもなり得るので、四季を生む太陽光の当たり方の変動が非常に大きくなるので、気候は現在の地球とは大きく違ってしまうはずです。また、月は地球の海面の高さを振動させる（潮の満ち引き）だけではなく、深層の海水の攪拌もしているので、そのことによる気候への影響も大きいかもしれません。

中心星に近い軌道をまわる惑星で、質量が地球質量程度以下の場合、その惑星の組成は主に岩石と鉄だと考えられます。温度が高い軌道にいるので氷は蒸発して抜けてしまうだろうし、形成当時にまわりに存在していたかもしれない水素やヘリウムガスは地球質量程度以下の惑星の重力では大量に取り込むことができないからです。

岩石と鉄の密度はかなり異なるので、惑星の密度を測定できれば、その惑星の岩石と鉄の比率を推定できることになります。惑星の質量は、惑星の公転の反作用で中心星が小さく周回するのを恒星からの光のドップラー効果を調べればわかります。その惑星が地球からみて食をおこす軌道になっていれば、食の最中にどれくらい暗くなるかを測ることで、惑星のサイズがわかります。質量とサイズが測定できれば、その惑星の密度が推定できて、鉄成分の割合がわかります。

土星のリングは飛び込んできた小天体が土星の重力の影響（潮汐力）で壊された破片だと考えられています。その破片は当初は土星赤道面から傾いた面内の楕円軌道を描いていたと思われます。土星は自転の影響で潰れた形をしていますが、その重力ポテンシャルの中で公転すると楕円軌道の軌道面は土星の自転軸に沿ってだんだんずれていきます（歳差運動といいます）。やがて破片群は土星をとりまくトーラスのようになってお互いに衝突し続けることで、必然的に土星の自転軸に垂直な面内の円軌道に変化していきます。図解がないとわかりにくいかもしれませんが、これが理由です。

アカデミックな研究の場合の話をします。プロの研究者はそれぞれが異なる得意なものを持っていると思います。アイデアがたくさん湧く人、別の話と結びつけるのが得意な人、うまくとりまとめて論文にするのがうまい人、計算や実験のスキルが高い人、若手の力を引き出すのがうまいベテラン、などなど。近年では一人で論文を書くケースは少なく、主体的に研究を進める人はいるけれど、そのときどきでいろんな得意技を持っている人を集めて論文に仕上げていくことが多いです。ですので、超人的なチカラというものが必要だと思ったことは、僕はありません。

「同じ研究」は何を指すのでしょうか？ 「同じ研究分野」なのか「同じ研究テーマ」なのか。同じ研究分野でも研究テーマは無数にあります。同じ研究テーマで一年たっても何も進捗が出ないなら、僕の場合は、それでは楽しくないので、その研究テーマは仕舞い込んで、新しい研究テーマを始めます。面白くなりそうな研究テーマはいくらでもあるので。また、寝かしておいたテーマが、何年か後にいい切り口が見つかって蘇ることもあります。

研究分野は一度立ち上がったら、数十年とかで、黎明期-->急進展期-->成熟期-->衰退期 （場合によっては再度進展）と進んで行くと思います。どの段階で、その分野から離れるかは研究者によると思います。僕の場合は、成熟期に入ったら別の黎明期にある分野に移りたくなると思います。黎明期-->急進展期の分野の熱気が好きで、やっていて楽しいからです。

だいたいたは、ひたすら考えても何も「形」をなさなかったり、閃いたと思ってもよく考えたらだめだったということで終わります。その場合は、僕は放置します。何週間後、何ヶ月後にそれが突然に形をなすこともあります。まれにうまくいく場合は、考えて蓄積された思考が突然「形」を成す感じで、僕の場合、シーンには関係ないです。

分野によって状況は大きく異なると思うので、よく状況を聞いたほうがいいと思います。基礎科学分野だとそもそも筆記を突破することが容易ではないと思います。また、修士と博士でも異なります。すでに修士号を持っていて博士課程入学の場合は、修士でひととおりの研究のやり方を習得していることで、専門分野が多少異なっても対応できると判断してもらえる可能性はあります。

質問者の方が言われているように、物理としての時間とヒトが感じる時間の流れというものは分て考えるべきだと思います。後者はヒトの意識のあり方に規程されると思うからです。

以下は、僕の今持っている限られた知識からの想像にしか過ぎませんが、ヒトが（正確に言うと、意識が宿っている体細胞が）有限の寿命しかないことが、「時間の流れ」という感覚に大きく影響されているのではないかと思います。物理的に破壊されない限り行き続けて寿命というものをもたないバクテリア（ヒトにつながる真核生物は進化のどこかの時点で「死」を手に入れたのでしょう）に意識というものがあったり、ヒトでも無限回の細胞分裂が可能な生殖細胞の方に意識が宿っていたら、今、ヒトが感じている「時間の流れ」という感覚は持てないのではないかと思います。それほど遠くない未来に、再生医療の発展によってヒトが不死になったり、ヒトの意識の情報を外部に半永久的に記録できたりできるようになるかもしれません。そうなったら、そのときに感じる「時間」とはどのようなものなのか気になります。

科学書という特殊な分野の本を10冊程度書いただけの限られた経験ですが、僕にとっていい編集者とは、僕の本に本気で期待してくれていて、一緒に頑張って走っていきましょうという熱意が静かに伝わってくる人です。たまたま担当になったので、まあ仕事だからやるけどみたいな方だと、いくら高い能力をもっていて売れるような形にしてくれても、書いていて楽しくないばかりか、喧嘩になってしまいます。そんな（甘ったれた？）ことを言うのは、自分が科学の知見のプロであっても、プロの書き手ではないからなのかもしれませんが。

僕の研究室は理論シミュレーションを主な手段としているので、研究室に入りたい学生さんたちから、よく同様の質問を受けます。答えはいつも同じで、「プログラミングは事前に何も勉強しなくていいです。漠然とした一般的なプログラミングの勉強はとても効率が悪いです。解きたい問題や解かなければならない課題が具体的に与えられたら、（偏微分方程式を解いたり、高度な並列化をする場合などを除いて）数ヶ月で先端研究で使える（動く）プログラムが書けます」と言っています。実際そうなっています。僕がいる東工大では、そういうことが得意な学生が集まっているというバイアスもありますが、具体的な課題に対して必死になって、まわりの人に聞きまくったり、プログラムを見せてもらって真似したりしていけば、実際に使えるプログラムは書けるようになるのだと僕は思っています。もちろん、エレガントさとかかっこよさは度外視で、そこそこ速くて、ちゃんと動くプログラムなら、そうやっていけば書けるようになると思います。

もし、読まれた本が僕が書いた本であったらなら、書き方が悪かったということで申し訳ないですが、「引き裂かれる」ということはありません。太陽が巨星になっても、太陽重力は変化しません。球対称な天体から受ける力はその天体の質量だけで決まって、サイズにはよらないのです。

点ではなく有限の大きさを持った天体には「潮汐」という効果が働きます。これは天体を両側に引っ張るような力で、現在の地球も太陽によって変形して、月による潮の満ち引きと合わされて、大潮や小潮が作られています。ですが、地球が引きちぎられることはありません。太陽に非常に近い天体でなければ、引きちぎられるほどの変形は受けません。太陽が赤色巨星になっても同じです。

一方で、地球によって太陽も変形します。太陽の形が球対称からずれるので、地球軌道が変化します。太陽が赤色巨星になると、その膨れのために、太陽の自転は非常に遅くなるので、太陽の歪み効果で地球軌道は縮みます。また縮む速度は、太陽が赤色巨星になって太陽表面が近づいてくると大きくなります。つまり、太陽が赤色巨星になると、潮汐の効果で地球軌道が縮んで、地球が太陽に飲み込まれてしまう可能性があるのです。ただし、そのような段階では太陽の外層部が剥がされて太陽の質量が減少していくので、太陽重力が弱くなって、地球軌道が広がる効果もあるので、地球が生き残れるかどうかは、この２つの効果の兼ね合いで決まります。

わからないことや曖昧なことはすぐに wikipedia などで調べたり、関連論文をその場で検索してダウンロードして読んだり、ということがサクサクできるので、それは好影響だと思います。指導教員とのやりとりに関しては、計算の途中経過などの報告は slack で迅速に行いつつ、議論はアポイントをとって対面で行ことを重視しているようで、バランスがいいなと感心しています。ネットやSNSだけで閉じてしまわないのは、もともとそれが身のまわりに当たり前にあったかななのかなと思います。

あくまでも僕の研究室でのやり方でしかないですが、もしひとつのやり方として参考になったらということで。僕のところでは、まずは学生がやりたいことを聞きます。難しさや新規性などは無視して、漠然としていていいので、希望を言ってもらいます。その希望の方向性は、僕にはすぐにはどうやっていいかわからないことも多々ありますが、その場合は、学生と一緒に一から勉強して、なんとか論文になるような切り口を捻り出します。その切り口を見つけることだけに、半年くらいかかることもあります。でも、そうやって見つけた研究は、相当苦労して捻り出さなければ思いつかないようなものなので、自動的に新規性があるものになることが多いです。また、もともと学生がやりたかったテーマを具体化したので、学生のモティベーションは維持され、僕自身の守備範囲が広がる研究なので指導する僕のモティベーションも上がります。

真鍋さんがアメリカに移った頃は、日本には高速計算機がなかったので、数値シミュレーションをしたければアメリカに行くしかありませんでした。1980〜1990年代には日本のメーカーが次々とスパコンを開発したので、その時代は計算機に関しては、日本の研究者が有利になりました。現代では（コロナ禍前まではですが）研究者は各国をとび回って国際共同研究や研究者やその学生たちの相互訪問が盛んになり、インターネットが発達したので、研究者はどこの国に住んでいてもあまり変わらなくなりました。状況もどんどん変化しています。このところ、天文学分野でも中国が急速に伸びていて、自国ではポストに恵まれなかった優秀な研究者が世界中から中国の研究機関に異動する例が増えています。一方で、日本の大学院に入学希望する欧米や中国の優秀な学生が急速に増えています（理由はよく把握できていません）。このような状況の中、「頭脳流出」という概念はあまり意味をなさなくなったように思います。

私の専門にしている理論研究では誰でも検証ができるので、チェリーピッキングをしたらいずれ見破られて国際的信用を失います。また、自分が考えていた仮説に反する結果のほうが、それまでの常識を打ち破る画期的な論文になることがあるので、自説に矛盾するような結果をむしろ大切にしています。さらに、天文や惑星などの研究分野では、自分が考えた仮説を示した上で、その仮説ではうまくいかないという結論になる論文であっても、そのロジックをクリアに示せば学界コミュニティで共有する価値があるので、国際ジャーナルに掲載されるという文化もあります。研究室に入ったばかりの学生には、論文指導の際にこういったことを丁寧に説明するように心がけています。チェリーピッキングしてもメリットはあまりないということがわかれば、若い学生も、それはしなくなります。

宇宙を研究している研究者は「意義」は考えていない人が多いのではないかと推測します。喉の渇きのような感じで、自分が存在している宇宙の仕組みや理を知りたいという思いを抑えられないという感じかなあと思います。少なくとも私は、そういう強い渇きを中学高校時代におぼえて、まずは宇宙論の勉強に突き進みました（渇きを覚える対象は、その後、太陽系のことや地球外の生命などにも、どんどん広がっていますが）。

天体衝突はずっと起きています。太陽系の小天体のサイズ分布は冪乗にだいたい乗っていて、サイズが小さい方が多くなっています。小天体の総質量はだんだん減っていますが、45億年かけてもじわじわ減っているだけです。流れ星はサイズが小さい天体の衝突なので頻繁にありますが、サイズが大きな天体ほど数が少ないので、稀にしか起きないということになります。

大谷さんが隕石落下の観測面から詳しく回答されているので、天体力学の面から補足しておきます。太陽から地球を見ると、その直径は 0.006度くらいです。一方で隕石の元になっている小惑星の軌道面は地球の軌道面を挟んで10~20度くらいの範囲に散らばっているので、地球への衝突地点の緯度に偏りをつけるのは非常に難しいです。

一方で、衛星は母惑星の潮汐作用によって、常に母惑星に同じ面を向けていることが多いので、衛星への隕石落下の分布に経度方向の偏りができないかいついては調べられています。月は地球の直径の30倍も離れているので偏りはできないですが、木星や土星の衛星では母惑星に近い軌道のものもいるので、もしかしたら経度方向の偏りがあるかもしれないという議論はあります。

惑星の場合は、衛星の軌道周期がわかれば重力の強さがわかるので、重さが求まります。他の惑星の軌道変動からも見積もることができます。冥王星の質量は冥王星の衛星が発見される前は不定性がかなり大きく、冥王星の発見当初はかなり過大評価されていました。そのことで、当初は第９惑星と扱われていました。小惑星の重力は他の天体への影響が小さいので、小さいものほど不定性が大きくなります。遠くの恒星の場合は、見かけの明るさ、恒星までの距離、表面温度（色）の観測値を理論モデルに入れることで、質量を見積もることができますが、不定性はあります。

私の場合は「自分が人生でやりたいことや仕事」ということはあまり考えたことはありません。生涯をかけた目標はもちろん10年先の目標も立てたことがありません。足元だけ見て進んで、そのときそのときで目の前にある面白そうな方向、わくわくする方向に進んできました。

大学進学のときは高校３年になってもあまり目標が定まらず、とりあえず宇宙論を目指しましたが、大学院の入試がうまくいかなくて、地球物理学に専門分野を変えることになりました。でも、成りゆきで来た分野だったのすが、面白い方向性が見つかり、流されてみるのって意外にいいじゃないかと思いました。その後も、--> 太陽系 --> 銀河力学 --> 系外惑星 と専門分野をちょっとづつ変えてきましたが、最近は、生命の起源も面白そうだと思い、地質学や有機化学、生化学を高校レベルのところから勉強しています。こんなやりかただと、失敗することも多いですが、それでも楽しいです。

地球外生命探索は、現代の天文学や惑星科学における重要な課題になっています。なぜなら、生命が実際に住んでいる可能性を持つ天体が続々と同定されているからです。太陽系外の他の恒星をめぐる惑星では、地球サイズ程度で表面に海を持つことが可能な軌道半径の範囲（ハビタブルゾーン）に存在するものが多数発見されています。太陽系内では、土星の衛星のエンケラドスでは地下に海を持つことが確実視されています。

ですが、それらの場所での生命の検出には大きな問題があります。私たち人類が知っている地球生命は全て（大腸菌も木も人間も）単一の祖先から枝分かれして進化した同種の生命であって、遺伝の仕組みも細胞の材料も同じです。つまり、私たちは一系統の生命しか知らないのです。その限定された知識で、他の生命をどうやって探したらいいのでしょうか。現在、暫定的に採用されているアイデアは「生命が関わった天体環境は非平衡になる」という仮説です。これは、遺伝や細胞ではなく、地球生命のもうひとつの性質の代謝に注目したものです。代謝は、生命という局所システムのエントロピー増大を抑えています。生命と天体は共存しているので、生命が存在すると天体環境に非平衡状態（例えば、大気や海の組成）が生じて、観測がしやくなります。地球大気には酸素が多くありますが、これは非平衡な組成で、光合成生命が原因になっています。

地球外生命探索は「生命とは何か」という大問題と直結していて、この考えでうまくいくかはわかりません。でも、太陽系外の惑星の発見はどんどん続き、2020年代後半には土星や木星の地下海を持つ氷衛星にむけて探査機が続々と飛び立ちます。とにかく、探してみるしかないのです。

では、「地球外生命体で、人間と同等か以上の知能を持った生物」の件ですが、これは大変難しい問題です。まず、地球の生命でも様々な方向に進化した先に、寿命もなくほぼ不死で旺盛な繁殖力を持つ大腸菌や、素晴らしい環境適応力を持つ木や、知能を持つ人類がいるわけです。つまり、「知能」は進化の一つの形に過ぎません。別の天体で生命がいたら、たとえ地球生命に似た仕組みをもったものでも、もっと様々な方向に進化していることでしょう。

他の「知性」を探索することは、「知能」以前に「意識とは何か」という大問題に関わります。「意識の起源」も科学で活発に議論されるようになってきました。脳科学や神経科学はもちろんのこと、AIやブレイン・ネットワークインターフェース、オプトジェネティックスなどの先端技術の急速な発展により、「意識」の問題にも大きな発展がもたらされてくるでしょう。他の知能を観測できるのかどうかは、「意識の起源」の科学的議論の発展にかかっていると思います。