寿司が過大評価、というのは自分もずっと感じていることでもあります。ただしそれをフレンチやインド料理と比較するのは少々土俵が違うかなという気はします。

フレンチやインド料理は当たり前ですが異文化の体系です。本当に好きな人が、ある一定のラインを超えてそれをよりおいしくしようとすればするほど、それは(日本人にとっての)最適解から遠ざかっていきます。つまりそれをおいしいと思えない人も増えていく。その点、寿司は、おいしくすればするほど(差異を感じない人も中にはいるかもしれませんが)それをよりおいしいと感じる人も順当に増えていくでしょう。

 

では何と比較して「過大評価」なのか。僕が思うのは、懐石/会席と比較してです。(表記が煩雑なのでこれ以降「会席」で統一します。)

和食/日本料理におけるオートキュイジーヌの最高峰は会席だったはずです。(表記が煩雑なのでこれも基本「和食」で統一します。)しかしそれはもはや、あくまで儀礼的な場を別とすれば、寿司に取って代わられた感があります。

逆に言うと、会席が支持を失ったがために、その役割を高級寿司が担っているという印象があります。

「今日は奮発してなんかおいしいもの食べに行こうぜ!」

みたいな時に、焼肉や寿司はすぐ候補に上がる。イタリアンもまあまあ出てくる。この文脈で会席はなかなか出てきません。和食に限定するとしても、天ぷらやうなぎの方がまだ出てくる。会席は下手すりゃ海鮮居酒屋より出てこない。

どうしてここまで差がついてしまったのか。それにはいくつもの要因が複雑に関係している気がします。

 

ひとつには、寿司がめちゃくちゃ進化した、という極めて真っ当な理由があると思います。5、60年くらい前の寿司について書かれた文章なんかを読んでいると、ちょっと拍子抜けするくらい素朴です。その時代に比べて今の寿司は大袈裟でなく「芸術的」だと思います。繊細かつ緻密。ある意味でラーメンの進化にも通じるような気がします。

その間、会席は(あくまで大筋としてはですが)あまり変化していないように思われます。変わらないことが重視されすぎたのかもしれません。

 

嗜好の変化もあるでしょう。会席の要は最終的には「野菜とダシ」です。もちろん魚も大事ですが、それは全体の流れに華を添えるような役割であり、主役とは言い難い。現代はなんだかんだ言って「肉と魚」こそがイコールご馳走です。中でも魚は特に「生」が好まれる傾向が顕著です。そして日本料理におけるダシは、現代の感覚だと旨味やコクが淡すぎる。かと言ってラーメン化するわけにもいかない。

だから会席でも最近の、特にミシュランがどう、みたいな意欲的な店では、最初から最後までやたら魚介類ばかりが出てくるパターンに出会うこともしばしばです。向付のお造りだけでなく、手を変え品を変え魚介が主役の料理が出てくる。

あくまで個人的な好みの話ですが、僕はこのタイプがあまり好きではなく、心中「これでは高級寿司で寿司の合間に出てくる寿司以外のツマミ大集合ではないか」とガッカリします。もっと野菜を! と。もちろんそれはそれでファンも多く、だから評価も高いのは重々承知ですが、正直、日本料理が寿司屋化してどうする、とも思っています。ちょっと前の沖縄そばのラーメン化の話にもちょっと似てる気がします。

何にせよそのステージで勝負したらそりゃ寿司の方が勝るに決まってます。

 

「何でも屋」よりも「専門店」の方が好まれやすいという時代の流れもあるかもしれません。割烹を何でも屋呼ばわりするのは失礼かもしれませんが、まあ、無碍にそれを否定もできないでしょう。

寿司はコース料理の形式ではあっても、結局最初から最後まで寿司というひとつの料理が提供され続けます。これは、「○○を食べに行こう!」というはっきりした目的意識を持って店が選ばれがちな風潮ともピッタリ合致しています。

その点会席には明確な主役がいません。強いて言えば焚き合わせでしょうか。しかし弱いです。もしくは最後のご飯でしょうか。もっと弱いです。だから先ほど述べたようなタイプの店では、野菜メインの焚き合わせはレギュラー落ちしたりもしています。ご飯も、鯛だの鮑だのイクラだの、海鮮に頼りがちです。これでは勝てません。だから会席を褒める時、人々は「何を食べてもおいしかった!」としか言えないのです。弱いですね。

 

いろいろ書いてきましたが、正直、これはほぼ個人的なルサンチマンです。バレてますかね?笑

「今日は奮発してうまいものを」

となった時に、僕の場合、寿司はまず候補に上がりません。焼肉も上がりません。会席は(フレンチあたりと共に)真っ先に上がります。なので会席がこれ以上衰退するのは困りますし、会席の寿司化はもっと困ります。なので、日本人が和食を食べたいと思った時、もう少し寿司以外にも目を向けてくれるようにならないかなあと願っています。

会席には寿司のような圧倒的なわかりやすさは無いけど、実は負けず劣らず良いものなんですよ、ということは、事あるごとにアピールしたいんですよね。以上、あくまでそういう意味での「寿司過大評価説」でした。

 

1年

利用規約プライバシーポリシーに同意の上ご利用ください

イナダシュンスケさんの過去の回答
    Loading...