私はそれほど熱心なVim信者ではありませんし、それほど熱心に布教もしてませんが、普段の編集ではVimを多用していますね。プログラムを書くときはもちろんのこと、日本語の文章を書くときにもVimを普通に使います。私は『数学ガール』などの本を書くのが仕事ですので日常的に文章を書くわけですが、そこでメインに使っているエディタはVimです。

Vimを使うと「思考の速さで編集できる」などと表現されることがあります。私はまあそれはそうだけど、あまり喧伝するほどでもないかなと感じています。人により、なじむなじまないがあるからです(だから熱心には布教しない)。

作業効率や柔軟性もさることながら、私がVimを好きなのは自分の発想にうまく適合しているからだと思います。ご存じだと思いますが、Vimは文字を入力するためにはモードを変える必要があります。人によってはそれにものすごく抵抗があるでしょうけれど、私にとってはまさにそこがVimの魅力です。

ファイルを編集するときには、がりがりと入力する場合もありますけれど、多くの時間は「読む作業」に費やされます。ファイルのあちこちを読んで考える作業を続け、ポイントポイントで「書き換える作業」に移ります。この「読む作業」と「書き換える作業」の行き来がちょうど、Vimのモードの行き来にぴったりするのです。

この感覚は言葉ではうまく説明しにくいですが「読む作業」をしているときにはファイルはちょうど堅く凍っている状態に感じます。ファイルの上を滑るようになめらかに移動できるけれど、ファイル自体は何も変化しない。ちょうど氷のようなものです。ところが「書き換える作業」に入るためにVimで入力モードに移ったとたん、ファイルはスッと氷から水に変化するのです。そしてすいすいと書き換えることができる。やがて編集が終わりESCを(あるいはCTRL+[を)打った途端、ファイルは再びスッと水から氷に戻る。Vimを使っているとそういう感覚を味わうのです。

Vim、なかなかいいですよ。

2年

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結城浩さんの過去の回答
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