標準英語の音素配列規則によると、日本語の「エ」に対応する母音 /ɛ/ は音節末に生起することができません。音節の頭や中では、end /ɛnd/ や set /sɛt/ など普通に生起できるのですが、音節末では原則として現われません。語末は音節末でもありますので、語末に /ɛ/ は現われないことになります。
音韻理論的には、「抑止母音」として分類される /ɛ, æ, ʌ/ などは閉音節(=子音で終わる音節)にしか現われない、すなわち当該母音で音節を終えることができないことになっています。
歴史的には音節末の /ɛ/ は生起しましたが、この環境での /ɛ/ は中英語期という早い段階で、弱化して曖昧母音 /ə/ へと変化しました。
日本語由来の sake, karate, karaoke などの語末の <e> で表わされる母音は、日本語では「エ」であり、一見すると英語でも対応する /ɛ/ を当てるのが自然なように思われます。しかし、上記の音素配列上の制約により、/ɛ/ を当てることはできないのです。音声的に最も近い発音であり、かつ音韻的に語末に生起できる英語の音素を考えると、/i/ か /eɪ/ あたりが候補に挙がってきます。
sake, karate, karaoke などでは、語末の1つ前の音節に強勢が置かれ、語末音節には強勢が置かれないため、より「弱い」候補である短母音の /i/ が選ばれることになります。
この事情は、日本語からの借用語に限らず、他言語からの借用語にも当てはまります。イタリア語からの al dente /æl ˈdɛnti/ やギリシア語に由来する apostrophe /əˈpɒstrəfi/ などの語末に /i/ が現われるのも類例です。
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