「数学ガール」シリーズと「数学ガールの秘密ノート(物理ノート)」シリーズとでは、分量が違うので両方を分けてお話しします。
「数学ガール」シリーズは10章構成になっていて、ざっくり一年掛かります。
「数学ガールの秘密ノート(物理ノート)」は5章構成になっていて、ざっくり半年かかります。
ざっくりした話としては以上です。
ただ、実際のところ「本を書くのに掛かる時間」というのを表現するのはとても難しいです。本を書き始めた日というのは必ずしもはっきりしないからです。本を書く前にはぼんやりと「こういう本を書きたいな、書いてみようかな」と考えている時期があります。そういう時期には、関連する参考書を読んで勉強することもありますね。それは執筆期間に入れるのかどうなのか。
映画などでよく「構想何年」みたいな宣伝文句がありますけれど、あのように表現したくなる気持ちはよくわかります。そして「構想N年」のNがとても大きいとしても、必ずしもその期間中ずっとそのプロジェクトだけを考えているわけではありません。
冒頭で書いた「一年」や「半年」というのは、その「構想何年」の部分は省き、本を刊行する頻度から逆算してざっくり求めた数値になります。私がこれまでに刊行した本の一覧は以下のPDFで入手することができます。「数学ガール」の新刊が一年に二冊出たことは過去にありませんし、「数学ガールの秘密ノート」の新刊が一年に三冊出たこともありません。
◆結城浩が書いた本(著書一覧のところからPDFがダウンロードできます)
https://www.hyuki.com/pub/books
もしも「ざっくりした話」ではなく、「準備期間」も含めた話題を詳しく知りたいなら、以下のnoteにもう少し詳細な内容を書いていますのでお読みください。
◆『数学ガール/ポアンカレ予想』を書くのにどれだけの時間を掛けてどんな準備をしましたか(本を書く心がけ)|結城浩 / Hiroshi Yuki
https://mm.hyuki.net/n/nbcb16902f9be?magazine_key=m715a102cda18
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本を書くときにどこに時間が掛かるか。それは私にもよくわかりません。大ざっぱには時間が掛かるポイントが二つあります。一つは自分が理解するところ。もう一つは自分の理解を適切に表現するところ。でもそんなのは当たり前すぎる話ですね。
自分が理解するところには、とても時間が掛かります。何を理解するかというと、その本で何を語るべきなのかを理解するのです。もっというなら、いま自分が書こうとしている本はいったいどういう本なのか。それを理解するのに時間が掛かるといえます。
表面的なテーマはもちろんわかっています。たとえば、『数学ガール/ポアンカレ予想』ならば、ポアンカレ予想がテーマになるんだなとわかります。そして著者である私は、ある一定のレベルまでポアンカレ予想のことを理解する必要があります。それには時間が掛かります。
でも、私がいま言いたいのはそこではなくて、もっと深い理解のことです。ポアンカレ予想をテーマにした本は世の中にたくさんあるわけです。では、私が書く『数学ガール/ポアンカレ予想』はいったいどんな本なのか。私はそれを書きながら探っていくことになります。そしてどこかの時点で「なるほど。いま私が書いているのはこういう本なのだな」と理解するタイミングがやってきます。その理解に至るまでに紆余曲折あって時間が掛かることになります。
自分の理解を適切に表現するところにも、とても時間が掛かります。ただ、上で述べた「理解」まで至った後なら、どのくらい時間が掛かりそうかはある程度まで予測できるようになります。自分の向かう方向が明確になっていれば、どういう要素はていねいに膨らませ、どういう要素は大胆に整理すべきかが明確になるからです。
以上、ご質問に関連するかもしれないことをお話ししました。もしも本を書く話題にご興味があるのなら、以下も合わせてご覧ください。
◆数学ガールの誕生(数学ガールの執筆に関わる講演の記録です)
◆本を書く心がけ(本を執筆することに関する話題を集めたnoteです)