「ジョブ型にしてほしい(中高年は能力が低い)」のくだり、まさに先日ご紹介した『賃金とは何か』でも記載のあった過去半世紀以上におよぶ「職務給を望む若者VS年功序列を望む高齢社員」の構図で苦笑してしまいました。なお、本書は「ジョブ型と成果主義は似て非なるもの」という指摘もあるため、質問者さんのように給与体系に疑問を持つ人ほど共感したり疑問が氷解したりすることもあると思いますので改めてご推薦しておきます。

さて、それはそれとして、文面から察する限り質問者さんが給料を上げるには転職する方が早そうな雰囲気はあります。ただ、転職するにしても転職先から見て質問者さんが仕事ができる人だと思わせられる程度になってからでないと転職しようとしてもオファーされる給与水準はそんなに高くならないのではないかという予感はします。というのも、人事制度を刷新してジョブ型(あるいは職務給や成果主義型)に変えてほしいと思うのであれば、それは1on1の場で上司に訴えて変えられるものではない、という組織構造ことが理解できていなさそうだからです。

人事制度は一朝一夕に変えられるものではなく(変えられるとすれば中規模以下のオーナー会社の社長くらいでしょう)労使の綿密な交渉の末に決まるものです。社長が変えようと思っても、あるいは労働組合が変えようと思っても現場から反対の声が上がって変えられないことがあるくらいです(そういうエピソードも上記の本に多く載っています)。即ち、人事制度を変えたくない”敵”は労働者側にいるのかもしれません。少なくとも上司や一人の役員に訴えてみたところですぐに変えられるようなものではないので、1on1の場を活かせるとすれば上訴の場としてではなく「どうしたら変えられるのか」という相談の場とした方が建設的でしょう。

これはあらゆる仕事に言えることですが、自分がやりたいことを進めるために他人を動かす必要がある場合、「誰が物事を動かす権限と能力を持っているのか」「目の前の人ができる権限と能力は何なのか」を見極めて適切な働きかけをすることが極めて重要です。権限がない人や能力がない人にいくら働きかけても物事は全く動かないどころか、無理筋な訴えをされることに煙たがられるのが関の山です。

今回の場合、その上司に人事制度を書き換える権限も能力もないことは明らかでしょう。なのにそういう話をされても上司は質問者さんを煙たがるだけで全く建設的ではありません。逆の立場に立って、質問者さんが部下(いなければ後輩)から「給与制度をジョブ型に変えてくださいよ!できないなら辞めます!」と毎回毎回1on1で詰められたらどう思うでしょうか。「私が変えて見せる!」って思いますか?「勝手に辞めてくれ」の方向に心が動きませんでしょうか。せいぜい、「まぁ適当に話を聞いてガス抜きしておいてやるか」くらいの気持ちになります。

その点、役員であればまだ人事制度の課題について取り組む権限がある可能性はあります。とはいえ、大きな企業であれば管掌はきっちり分かれていて、人事管掌ではない役員に人事制度について訴えても権限も能力も発動してはくれないでしょう。その上司が「役員との1on1では業務報告と改善提案だけにしろ」と言っている理由は、その役員の権限と能力で可能なことはその役員の管掌する業務における業務改善だけだからかもしれません。せっかく役員と話せる機会なのに、気に入られるどころか煙たがられるようではますす昇進が遠のくどころか転職でも不利になりかねません(レファレンスを取られることがあるので)。

かかる観点では、「ジョブ型にしてほしい」は無理筋でも、「私が昇進できない理由は何ですか」とか「どこを改善したら昇進可能ですか、それとも構造的に昇進できないのですか」などの質問をしていく方がまだ建設的とはいえるでしょう。上司の権限の範囲で話すことができるはずだからです。役員と1on1をするときも同様で、人事制度の書き換えまでは無理でも、役員が昇進した時にはどんな努力をしたのか、どんなハードルがあってどう解決したのかとか、その人の”武勇伝”を聞く体裁で自社の文化や制度やキーパーソンなどを調べていく機会にした方が有益だと思われます。うまくヨイショできれば、もしかしたら人事制度に関する重要なコメントを聞けたりするかもしれません。

転職も有力な選択肢ですが、まずは社内で転職を惜しまれるくらいの人材になっておくと転職時の給与交渉も有利ですし、もしかしたら転職しなくとも昇進できるかもしれません。ご武運を。

4か月

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中田:‖さんの過去の回答
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