ご愛読ありがとうございます。

 『結婚詐欺師』を気に入っていただいているのですね。詐欺師という人たちは、まず自分自身を騙すことから始まると聞いたことがあります。カツラであろうと何であろうと、まず自分が理想とする人間像を作り上げて、自分をそこに当てはめていく。そうして、実在の自分自身ではなく、詐欺師である自分こそが本物なのだと信じ込むということです。ですから、どんな甘い言葉を吐き、嘘で嘘を固めても、「本当の自分」がやっている気になっているので、罪の意識は抱かないのだそうです。そして、その本気度が相手にも伝わるとき、嘘の中に恋愛感情が生まれてしまうんですね。

 恋愛は多かれ少なかれ、ちょっとくらい「だまし騙され」という部分があると思います。目がハートになっている間は、相手のいい部分しか見えないものですし、また、自分も相手に対していいところしか見せたくない。それが、たとえば交際が長くなったり結婚したりすると、それまで隠れていた部分がだんだんに剥げ落ちていって、現実が見えてくる。それを考えると、詐欺と本物の恋愛というのは、金銭の問題が絡んでいて、また相手に「騙す意思」がある以外は、あまり変わらないのかも知れませんね。

 そういえば、『結婚詐欺師』を上梓して何カ月か過ぎたとき、九州のとある警察署から電話がかかってきたことがあります。そして、刑事と思われる人に「『結婚詐欺師』という本を書きましたか」と聞かれました。私はドキドキしながら「はい」と返事をしたのですが、それがどうしたのかと質問をすると、実は最近、結婚詐欺師の男を逮捕したというのです。そこで取調にとりかかったところ、『結婚詐欺師』を読んで、自分にも出来そうだと思って真似してみた、という供述をしたために、「ウラをとる」ために、著者の私に電話をしてきたんだそうです。

 おかしいですね、小説のまま真似をしたら最後には逮捕されるのに、どうしてそんな真似をしたんでしょう。

5か月

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乃南アサさんの過去の回答
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