大病のために数学を学ぶ機会を逸してしまったというのは確かに悔しいものだと思います。お察しいたします。
私はときどき同様な質問をいただくことがあって、答えるときになかなか悩みます。というのは、「数学がわかる」あるいは「数学がわからない」というのは難しい話で、あまり画一的に「こうすればいいですよ」という答えがないように思うからです。
たとえば、極端な話をするならば、中学や高校の教科書や参考書を入手して地道に学ぶこともできなくはありません。人によってはそれでかなり進むことができると思います。その一方で、そのようなやり方だと、いったん理解に躓いたときにやる気をなくしてしまったり、あるいはまたまちがった理解に進んでしまう危険性もあります。
特に、高校で学ぶ極限はなかなか難関だと思います。またベクトルも難しくはないのですが、何のためにやっているかがわからなかったり、これでいいのかと不安になることも多いと思います。
私は「数学ガール」シリーズや「数学ガールの秘密ノート」シリーズという数学読み物を書いていますので、それらを読んでいただくのは、勉強のきっかけやモチベーションアップには悪くないと思いますが、それで網羅的にあなたの期待するものが得られるとは限りません。
別の考え方として、誰か数学の「先生」について学習を進めるという方法があります。最近では社会人のための学び直しや、新たな学びのための数学を教える塾や教師も複数見つかりますので、それを利用するのは悪くない選択です。
「先生」について学習を進める最大のメリットは、自分の「わからない」にフィットした学習を作り上げることが出来る点です。特に、自分が納得いかないところを納得いくまで質問し続けられるのははかりしれないメリットといえます。そうすれば、自分の納得のいく学びを進めることができるはずです。
逆にいうならば、自分が「それは理解できない」「どうしてそうなるのか」というフィードバックを「先生」に対して返す必要があります。人によってはそれが苦手な場合がありますが、フィードバックを適切にしないと、せっかく「先生」を頼んでも効果的な学習はできないでしょう。
最大のデメリットとしては、お金がそれなりに掛かるという点ですね。でも適切なサービスを受けるとしたら、授業料はある程度覚悟しなくてはいけないと思います。もちろん、契約の前に、自分が受けることができるサービスが何であるかはきちんと見極める必要があります。ガイダンスやカウンセリングのような形で最初に話し合いがあったり、模擬授業などがあるかもしれませんので、そこはよく調べて考えて判断するのがいいと思います。
社会人ということで、「お金」の面ではそれなりに都合が付くかも知れませんけれど、問題は「時間」です。モチベーションとも関係しますが、どのようにして自分の時間を数学の学習に向けるのか、向け続けるのは大きな課題になります。
たとえば、数学検定のような試験を目標にするのも一つの方法です。ただ、目標の持ち方はさまざまです。最初からすべてかっちり決めるのではなく、少し進んでみて、うまく行かないようなら方向性を変えるという柔軟な発想も大事でしょう。
最後になりましたが、あなたが「数学を学び直したい」と考えるのはすごいことです。応援します!がんばってください。
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