全世界の規模になると、私には検証できないのですが、在日中国人の方々にはお会いする機会があり、その時に色々とお話を伺ったところ、習近平のことはあまり言いたがらないのですね。

そもそも政治に興味がない、中共が好きなわけでもない…という人も少なくないのですが、愛国的な中国人と一緒にいても、特に習近平の話題は出てきませんでした。

良いとも悪いとも言わない。

その代わり、安倍さん（首相在任中の頃）の悪口はたっぷり聞かされましたがw

我々からすると、独裁者とその信奉者である国民の関係は、ヒトラーであるとか、毛沢東みたいに、肖像画を部屋に飾って敬礼をしたり、独裁者の著書（「我が闘争」とか「毛沢東語録」とか）を愛読していたりするわけですが、それに相当する形での「習近平崇拝者」というのに出くわしたことは皆無です。

中国だとそれなりにいるんですけどね。

腐敗取り締まりは素晴らしい！光盤行動（食べ残しをせずに食べ物を節約する運動）は素晴らしい！地方の田舎の農民や老人の生活にも気を配ってくれて素晴らしい！などなど。

「日本人は、こんなに素晴らしい習主席のことをロクに知らずに、悪口ばっかり言ってる！」と憤慨されたこともありました。この人は日本語ができるわけでもなく、日本のメディアを見て自分で確認しているわけでもないので、中国国内では「そういう印象」が広められているのだと理解しました。あながち間違ってはないんですけどねw

でも、日本ではこれらの経験が一切ないんです。

日本は結局、中国人にとってのアウェイなので、そこで外国人に習近平の話を振る必要性があまりないし、無理にそういう話をして、日本人と仲が悪くなっても困るだけなので、何も言い出さないだけじゃないのかな…と思います。

それと、日本には中国がイヤで逃げてきているようなタイプの中国人も少なくないので、そういう人たちに対しても、「配慮」して口に出さないのでは。逆に、「習近平が嫌いだ！」とはっきりカミングアウトしても、愛国的な中国人に睨まれるだけなので、あえて口にしない。そういう状況で、習近平について触れないのが「暗黙のルール」になってるんじゃないかなぁ…と思ったりします。

でも、愛国的な在日中国人の部屋に行っても、習近平の肖像画を飾っているのを見たこともないし、習近平の著書を愛読しているとも聞いた記憶もない。部屋に積まれている本を見たけど、確か習近平の本はなかった。

ところが、意外なものを見つけました。

戦狼外交官で有名な、中国駐大阪総領事館の薛剣総領事の写真があったのです。

熱烈なファンで、尊敬してます、みたいな話でしたw

「でも、どうして？」と思ったので率直に聞いてみましたけど、薛剣さんは歯に衣着せず、ズバズバと言ってくれるので、そこにシビれる、あこがれる…ということでした。愛国的な中国人からすると、最近の日本は中国に対して友好的でなくなり、尖閣は国有化するし、メディアでは中国警戒論が常に出てるし、反中的な言論も多い。そうやってストレスを貯めている時に、日本にいる領事がガツン！と「反中日本」を一刀両断してくれるのは気持ちいいんでしょうね。そういう「薛剣総領事ファン」の在日中国人は他にもたくさんいる、とも聞きました。

たぶん…なのですが、在日中国人の中には、習近平の熱烈な崇拝者もいるのかも知れないけど、それをいちいち日本人に誇示しても面倒なだけなのでしない。そして、そもそも「習近平思想」に、「これぞ習近平思想の真髄だ！」みたいなのが見当たらない。個別の政策で…たとえば「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」「海軍強国」「一帯一路」とか色々ありますけど、全部がようするに「強いことは良いことだ」「豊かなことは良いことだ」みたいな話なので、否定する必要もないけど、大絶賛するようなことでもない。大体、これらがほとんど上手くいってる様子がないw。やればやるほど、周辺国の脅威になって、不安を振りまいて、関係を悪くして、不評なばかりですから。

だから、総論においては習近平を「偉大なる指導者」と思っているけど、各論の政策においては「腐敗取り締まりをした」「ご飯を残さず食べなさいと指導した」「田舎の農民や老人に優しくした」というのは評価されても、「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」「海軍強国」「一帯一路」においては順風満帆と行かず、それらが上手く行かないのは外国勢力のせい。反中の国々がグルになって中国の発展を妬み、中国を悪者にして、足を引っ張って邪魔をしている。だから、薛剣さんみたいな人が毒舌で日本を滅多斬りにすると、大喜びしてファンになる…みたいな構図が出来ている。

肝心の習近平は、外国においてはアンチも多いので、下手に話題にすれば「物言えば唇寒し秋の風」となる。だから、「鬼神を敬して之を遠ざく」的に普段の会話にはあえて出さない…ということになっているんじゃないかな、と思います。