昔からこの区別をつけるために,研究の中でいろいろな工夫がされています。そして,一口に「自信過剰」といっても,いくつかの異なる側面や異なるタイプが存在すると考えられます。

第1に,自信過剰な状態というのは,すぐに「バレる」,つまり現実と自分自身との能力の違いを自覚する場面に遭遇するので,その自己肯定感(心理学ではself-esteem[自尊感情や自尊心]という用語を用いますが)が揺らぎやすく不安定になりやすいだろうと考えることです。この考え方から,いくつかの把握方法が考案されています。たとえば自尊感情が不安定なので,毎日毎晩,日記のように自尊感情を測定すると,自信過剰な人は普通に自尊感情が高い人に比べて上下に自尊感情が揺らぎやすくなる(高い位置で揺らぐ)という測定方法です。

第2に,自信過剰な状態は「バレやすい」ので,それをできるだけ隠そうとすると考えられます。通常の(真の意味での)自尊感情が高い人は,リスクを冒すことをためらいません。また課題に対して努力をして,チャレンジしようと試みる傾向があります。しかし自信過剰な人は,同じように自尊感情は高いのですが,リスクを冒さず失敗を避け,ときには「ズル」をしてでも結果を取り繕おうとすると考えられます。それは,次に述べるように他者からの評価が高い自尊感情の供給源となっているからだと考えられます。

第3に,自信過剰な状態というのは,常にエネルギーを供給し続ける必要があるという考え方です。これは,常に誰かに褒められたり賞賛されたり,認められたり,崇められたりしていないと自信過剰な状態を保つことができないという状態のことを指します。自信過剰ではない自尊感情は,自分自身を受け入れ,あるがままに自分を肯定する要素が大きいと考えられます。昔は,自尊感情の高さと承認欲求(他の人から褒められたいという欲求)の高さを組み合わせることで,自尊感情が高くかつ承認欲求も高い人物すなわち自信過剰な人物を見つけ出そうという工夫が行われたこともあります。また,いわゆるナルシスティック(自己愛的)な人物の一部には,自尊感情が高くかつ他者から賞賛され特別扱いされることを当然だと考える特徴をもつ人々がいることも知られています。

第4に,非現実性を伴うという考え方です。実際の能力や知識に基づいて判断するのではなく,推測や思い込みによって判断する傾向です。たとえば,あまり知られていない世界の都市と,ありそうなのだけれども実際には存在しない都市名を並べて「それぞれを知っていますか?」と尋ねるような,「知ったかぶり」を測定する研究があります。自信過剰な人は,より多くの「ありそうだけれども存在しない都市」を「知っている」と回答することでしょう。

ずいぶん昔から,「本当の意味で自尊感情が高い人」と「自信過剰な自尊感情が高い人」をなんとか区別しようと,心理学者たちは工夫してきました。自己愛(ナルシシズム)なんかはその代表的なもので世界中で研究が行われていますし,自尊感情の変動性,潜在的自尊感情,真の自尊感情としての本来感など,多くの研究が行われていますのでチェックしてみてください。

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