さすがに「日本がなくなってはいけない理由は?」という質問は極端すぎるとは思います。われわれの人生観や死生観、さらにはライフスタイルやさまざまな価値観は日本固有の文化に深く埋め込まれている部分があり、それらの集合的な根底である日本がなくなって良いと思っている人は少ないでしょう。他の国であってもそれは同じだと思います。
とはいえ、最初のご質問である「少子化は解消しなければいけないものなのか?」というご質問は、一考に値すると思います。
少子化の原因である出生率の低下は、日本だけでなく世界の先進国のほとんどで生じている現象です。かつては「欧州は子どもが増えている」と言われてましたが、移民流入による出生率向上の影響が大きかったことが指摘されています。これはアメリカも同じです。またアジアでは韓国や中国などが日本を上回るスピードで出生率が下がっており、タイなどの東南アジアでも同様の傾向が出てきています。
つまり近代化と都市化が進めば、どの国であろうと子どもを産む人は減っていく。移民によって反転させようにも、いずれ中東やアフリカなどが工業化・都市化を進めれば、結局は世界全体で同じ傾向に収束していくのは間違いありません。実際、国連でも世界人口は21世紀後半にピークアウトするという予測を出しています。
少子化は、いずれにしても防ぐことはできないのです。そうであれば、少子高齢化先進国である日本としては、ひたすら少子化・子ども増やせ対策に全力を尽くしまくるのではなく、「もうひとつの道」を検討する時期に来ているはずです。
「もうひとつの道」というのは、少子化を前提とした社会のグラウンドデザインを設計することです。地方の人口が減って、自治体を維持できなくなったら、どう再編していけばいいのか。郊外の住宅団地の住民がゼロになり大規模なゴーストタウンが出現したら、どう処理するのか。現在すでに起きていますが、人間の生息域が狭まってクマやシカ、イノシシなどがこれ以上跋扈するようになったら、どう対処すればいいのか。そもそも経済成長を維持できるのか。維持できないとしたら、その場合はどのように福祉や医療にまわす予算を確保するのか。AIやロボットはどこまで活用できるか。
考えなければならないテーマはてんこ盛りです。しかしこれらをひとつひとつ検討し、解決する方法を探っていけば、人口は少ないけれども安定したよき日本社会というものをわれわれは21世紀後半から22世紀にかけて構築できるようになるかもしれません。というか、それより他には道はないと思うのですけれどね。