若者ではありませんがかつてあんこ嫌いで、今でも心から大好きとは言えない僕のケースをお答えしておきましょう。あんこ嫌いにも様々なパターンがあるかもしれませんが、その中のひとつということです。
あんこ嫌いと言いながら、あんこをおいしく食べることは簡単です。あんバターサンド、おぐらトースト、クリーム大福やクリームあんみつなど、油脂分がたっぷり加わると苦手感が薄れるのです。あんまんや月餅など、あんそのものに油脂が練り込まれるだけでも、大好き、とまでは行きませんがずいぶん食べやすく感じます。あんこを一応克服した今でも、かりんとう饅頭(揚げまんじゅう)は、一番好きなまんじゅうです。
水ようかんは昔から好きです。お汁粉もまあ行けます。つまりたっぷりと水分が加わることもあんこ克服の鍵になるようです。
と、考えていくと、おそらく僕にとってのあんこ苦手感は、そのホクホク感やザラザラ感に由来していると考えられます。あんこが苦手な人はよく「甘すぎるから」と言いますが、実際糖度だけで言えばもっと甘いお菓子はいくらでもあるわけで、より正確に言語化するならば、「粘度の高い粒子の集合体が口中にへばりついて甘さをそこに滞留させ続けるから」ということになるのではないかと思います。だから僕の場合、粒あんよりはこしあんの方がだいぶマシです。
またその甘さはむしろ純粋美味的なものであり、酸味も苦味もないことが、その甘さの滞留をよりつらい物にしていると感じます。塩気はある方が食べやすく、普通のあんより黒糖あんの方が食べやすいのも、雑味が好ましいマズ味として機能している感覚です。
このホクホク感やザラザラ感は、あんこ好きの人にはむしろ長所として受け取られているのではないでしょうか。僕も最近はようやくそれをマズ味として多少は受け止められるようになってきました。しかし耐性は極めて低いので、あんこからさらに口中で水分を奪うような皮に挟まれたり包まれていたりするとお手上げです。この機序により、僕にとってもっとも克服しがたい和菓子界のラスボスが「どら焼き」です。どら焼きを好きになれたら、僕はその時こそ堂々と「和菓子好き」を名乗るでしょう。
今の若い人に特にあんこが嫌われているのかは、僕の実感としてはなんとも分かりませんが、僕同様、油脂か水分をたっぷり含んでいないと甘いものをおいしく感じない人の割合は、増えていてもおかしくないだろうなとは思います。
新大久保のストリートで売られている若者に人気の韓国スイーツはどれも油脂たっぷりで、そして実は僕もあの類はどれも大好きです。正直和菓子よりもずっと親近感を感じる、素直においしいと思える味わいです。
そう言いながら僕があんこを克服し、和菓子を好きになろうとしているのは、和菓子好きはかっこいいと思っているからです。和菓子が好きな自分になりたいので経験値をためている。つまりそれはスキルツリーというかキャラ育成の話です。
現代の若者で和菓子好きの方向にマイキャラを育てようとする人はなかなかいなさそうでもありますね。まあこれは昔からいなかったのかもしれませんが。