畑中さん、はじめまして。いつもはっとさせられるようなアドバイスを拝見しては、参考にさせて頂いております。

今回、質問させていただきたいのは、『二次創作との向き合い方』です。いきなりデリケートな質問になってしまい大変申し訳ありません。担当編集者さん、そしてまわりの漫画家さんにも相談できる内容ではなく、もしよろしければお答え頂ければ幸いです。

自作の二次創作が数年前から活発になっております。そのことに関してまして今の気持ちを整理しますと、

・私より上手い方を見ると、自分の存在意義がなくなってしまったようで辛い

・やろうとしていた展開を描かれてしまってどうしたらいいのかわからない

・一部、キャラを愛しているとは思えない扱い方をされていて、これ以上漫画を進めていくことに意義を感じられなくなる瞬間がある(忘れようと言い聞かせて復活しますが、時間を要します)

自分の気持ちを正直に書きました。この考えがかなり傲慢であることはわかっています。読者の方が読んでくださらなければ、連載を続けていけないことは身に沁みて理解しています。

対処法として、もっと先の読めない展開を考え、また技術的に向上しようと努力するのはもちろん、感想を見たいがためにやっていたSNSでのエゴサをやめ、ネットへの接続も物理的になくしました。二次創作を目にすることはなくなりましたが、どこか空しい気持ちを埋められず、創作意欲がなかなか湧いてこない状況です。

多くの方の目に触れるということは、自分の思いも寄らない楽しみ方をされるのは当たり前のことかと思います……。

読者のみなさまにはもっともっと私の漫画を読んで、ほんの一時でも楽しんでほしいです。そのためには私のこの曲がった根性をなんとかしなければなりません。


二次創作とうまい距離を保つには、プロとしてどのような心持ちでいればいいのでしょうか。なさけない質問ですみません。こんなことで悩んでいるのはおそらく自分だけなんじゃないかと漫画家として大変恥ずかしいのですが、なにとぞよろしくお願い致します。

他人から見ると羨ましく見えているんだろうな…ということに対して不満を言うのって難しいですよね。

私も正直に言うと、現場の編集者として直接作家さんと打ち合わせするのが大好きだったので、編集長やプロデューサーといった上の立場になって、編集者を管理をする、編集者を育てる立場になってしまったことが苦しくて仕方が無いと感じる時があります。

編集者として頑張った先に待っているのが、思う存分作家さんと打ち合わせ出来る立場ではなく、同僚の仕事をジャッジしたり管理する仕事ということに、心がついていかない時期もありました。

他人から見ると羨ましい立場に見えているんだろうな…と思いつつ、それがじゃあ私の望みなのか?と聞かれると明確にノーで、「出世するためにはこうした方がいい」なんて言われると、無性に反逆したくなったりもする。

でも、自分は凄く上司や同僚、後輩に恵まれていることも、誰より解っている。

だから、周りから望まれるなら、その期待には応えたいと思う。

たとえそれが自分にとって苦しいことでも頑張りたい。頑張る自分でいたい。

私の状況とは比べものにならないですが、苦しさを理解出来るような気がします。

作者であるあなたが望めば、二次創作を辞めさせることが出来るということなんて当然ご存知ですよね。

あなたが考えていた展開を先に描かれてしまうのは、あなたの漫画がしっかり構築されている証拠であり、二次創作者の力ではないことも、きっとちゃんと解ってる。

”キャラを愛しているとは思えない扱い方”をされるのも、人気ジャンルになったせいで寄ってきた蝿みたいなものだと解ってる。

「二次創作が盛り上がるなんて人気の証拠」

「二次創作のお陰で売れる部分もあるんだから、感謝すべき」

「今どき二次創作を嫌だと思うなんて、バカ」

などなど、周りからはそう見えていることが痛いほど理解していて、自分もそう思うべき…と考えてらっしゃる。

でもねぇ!

まずは「うるせぇよ!!!!!!!」って叫びましょうか!!

本当に口に出して叫ぶことをおススメします。

自分の気持ち、立場を明確にしましょう。

あなたは作家であり、権利者です。

あなたが嫌なモノは嫌だと言っていいのです。

その気持ちをなかったことにしようと我慢すると、あなた自身が傷ついてしまう。

だからまずは本心を叫ぶ。「うるせぇよ!!!!!!!」って叫ぶ。

その上で担当者に対して「売り上げのために二次創作に対して見て見ぬ振りをしてもらえないか?とお願いして!!!」と言いましょう。

望まないのに、あなたが自らすすんで許す形を取っているから、苦しいんです。

担当編集者から必死にお願いされましょう。

必死にお願いされたから、嫌だけど、見て見ぬ振りをすることに決めた、という形を取りましょう。

結局許すんだから同じ事では…?と感じるでしょうけど、ダマされたと思ってやってみてください。全然違うんで。

今までのあなたは、自分が望んでいないことを、自分のために我慢させられていた状態です。

でも、望みじゃないことなんで、なんのために我慢しているのか?が時々解らなくなって、全部ぶち壊したくなる時が定期的に来てしまう。

心がずっと苦しい。

だから、我慢する理由を作るんです。

「担当編集者に頼まれたから」我慢する。

自分のために我慢するんじゃなくて、誰かのために我慢する。

その方が自分にとって嫌なことは絶対我慢できますよ。

もう一つ、凄く大事なことで、めちゃくちゃ難しいミッションがあります。

それは、自分のことを「神」だと思うことです。

あなたは二次創作者の皆さんのことを、自分と同じ立場の人間、創作者だと感じてる。

同じ土俵に立っているから、自分が描こうとしているものを先に描かれてしまうと、その展開を描けなくなったと感じてしまったり、キャラへの理解が浅い作品を読んで「愛がない」と感じたりする。

そんな風に苦しむのは、あなたの性格の良さから来ていることであり、素敵な部分だと思います。

でも、やめましょう。

同じ創作者だと感じていると、あなた自身の漫画に歪みが出てしまいます。

序盤から丁寧に積み上げていた伏線やキャラ設定などで当然導かれていく美しい物語の流れを、途切れさせてしまう可能性が出て来ます。

先に描かれてもいいんですよ。

先に描いた二次創作者は、あなたの熱烈な信者なんですよ。

「よく理解した」と神視点で褒めてあげましょう。

そして、自分の神としての立場を理解して下さい。

全く同じ展開・セリフであったとしても、あなたが描いたもののみが正典なんです。

二次創作で描かれたものを読むのはごく一部でしかなく、その一部のせいで、他の読者が読みたかったものを封印することなど、神としてやらないであげて下さい。

先が読めたって良いじゃないですか。

名探偵コナンは、毎回「コナンが見事に推理して解決するだろうな…」と思って読んでいて、実際その通りのことが起こりますが、最高オブ最高です。

「期待通りの展開が起こる」というのは、エンタメにとってネガティブなことでは本来ないはずです。

二次創作に対してファイティングポーズを取って、作者も読者も望まない意外な展開を描き募って作品を壊すことだけは絶対にしないようにお願いしたいです。

神になるのは…凄く難しいことだと解っています。

でも、望もうと望むまいと、既にあなたは神様になっちゃってるんです。

もしかすると、そういう上から目線の先輩作家さん達のことをこれまで「偉そうだな…」「痛いな…」と思ってらっしゃったかもしれませんが、そうしないと大事な作品が守れないことがある。

立場が変わると見える景色が変わりますよね。

変だと感じていたことが、実は合理的なことだったと理解したりする。

読者にとって一番辛いことは、作品が壊れること、作品が止まることです。

そして、あなたにとっても一番大事なことは、作品を守ることでは?

自意識が爆発して死にそうになるかもしれませんが、「我、神なり」となんとか思ってみて下さい。

思えますように…!

1年

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