基本的に、日本がコンシューマーゲーム機文化の国であり、同時にスマートフォンゲーム文化の国であり、PCが普及していないし、PCがゲーム機として認識されていない時代が長かった。
『League of Legends(以下、LoL)』がリリースされた2017年という時期は、その流れを引きずっていた時期であり、新しいジャンルのPCゲームが人気になるにはまだ早すぎたから、というのが簡単な回答になると思います。
『Dead by Daylight』のような見るだけで楽しめるゲームの配信などを通じてPCゲーム人気は温まっていき、2023年現在かなり市場は大きくなったと思います。しかし、『LoL』が大人気ゲームになることは極めて難しかったのが2017年という時期でしょう。
この質問に対してはPCオンラインゲームの専門家が回答したほうがより良い回答が出てくるかもしれませんが、以下に根拠を書いておきます。本文で引用しているデータについては年度が異なることもありますが、大きく傾向が変わらないと割り切って使っています。
『LoL』は以下のような特徴を持ったゲームです。
・PCを持っている人しか遊べない
・50分程度はPCを占有して遊び、2プレイ以上遊ぶことも多い(長時間ゲーム)
・MOBAという日本になじみのないジャンル
ということは、理想的なユーザー像は以下のようになります。
・PCでゲームをする習慣があり、占有できるPCを持っており、ボイスチャットできる環境があり、時間に余裕のある人
ところが、この条件が日本では非常に厳しかった。『LoL』の日本サーバーオープン時、日本は個人用PC普及率が低く、また家庭普及率は72.5%(総務省データ、『LoL』日本サーバーオープン時の2017年)。
「時間に余裕がある」ということは学生がメインターゲットになると思いますが、その低年齢層のPC普及率が諸外国で群を抜いて低いのが日本。以下は平成25年度の内閣府による10~29歳までの調査データですが、日本のPC普及率が持っている割合が諸外国と比べて極めて低いことがわかるでしょう。ノートとデスクトップを合わせた所有の値が100%を割っているのは日本だけです。どこも130%ぐらいあります。
ここでさらに「占有できるPCを持っている」というとさらにハードルが高い。
数字には出てこないですが、日本のPCは家族共用であったり親のものであったりすることが多く、ゲームのために長時間占有できなかったり、居間に置いてあって会話しながらゲームプレイに適さない環境であったりするからです。つまり、日本人はゲームに適したPC環境を持つことが少なかったので、「外国で人気のPCゲームが日本で同じような規模で流行るわけがない」のは当たり前です。
さらに「時間があるPCユーザー」となると、学生のPCゲームプレイヤーが『LoL』のターゲットプレイヤーとなりますが、同調査の付属データによると日本でPCが手に入るのは大学に入るときということになります。高校生まではPC所有率が非常に低い。
PC普及率が低い苦難があるうえ、日本で遊ぶのに適した年代でPCを持っているのは「大学生になって個人の学問用PCを与えられた人」ぐらいしか日本にはいない。その数少ない層が『LoL』のメイン層でそこを中心に頑張ってプレイ人口を確保していった、というのが日本のLoLだと思います。
実際、大学生プログラム『League U』にはかなり力を入れているようですし、『LoL』のプロリーグLJLで活躍している中にもいぇーがーさんなど学生プログラム出身の方がいらっしゃるので、ターゲット層をガッツリ掘ることには成功しているし、「日本の状況を考えればかなり人数を確保できているのでは?」という感じがあります。
今、日本はPS5の普及の遅れでゲーム機からPCへ市場の移行が進んでいるように見えます。いま、MOBAのように新しいジャンルができてPCではやったら、日本でも同じようにはやる可能性があるでしょうね。
2017年という時期は、PCゲームを日本でガッツリ流行らせるには早すぎました。
このように書くと「日本には見込みがなかったのでLoLが失敗した」というように見えてしまうかもしれませんが、『LoL』は日本という条件下で頑張ったし、出た影響は非常に大きかった思います。
2017年というのはPCでしか遊べない『Dead by Daylight』に実況者ファンたちが熱狂し、海外からやってきたeスポーツの革命児『LoL』が花開き、PCゲームに憧れる人々が増えていった年でした。そのころ、ゲームは「PCなんかなくてもいいじゃん」と言われていましたが、実況者に憧れる若い子供たちに「ゲームをPCでやりたい!」という気持ちを植え付けたのは、その時期のゲームです。
日本でPCゲーム市場が大きくなった背景には2017年に『LoL』の日本ローンチがあったから、というのは一因としてあるでしょう。
追記:
「韓国では国民的ゲーム」という前置きがあったのを忘れていたので追記します。韓国ではそもそも『スタークラフト』というRTSがTVショウ化されるほど大人気であり、RTSが国民的ゲームであったという経緯から、RTSを5人でプレイするゲームシステムであるMOBAが爆発的に受け入れられる土壌がありました。また、国策で学問のために安価で利用できるように整備されたインターネット網とPCカフェが整備されてゲームに転用されていたため、PCがなくても『LoL』を遊ぶことができました。PCカフェはゲームセンターのような地域性を持ち、「カフェAのやつらにやられたからこれから特訓だ!」というような対戦を過熱させる要素があったそうです。また、あまり良くないですがPCカフェからの接続ゆえに相手が見えない&負けそうになったら友達と交代みたいな代行文化も流行りやすかったとか……。
いずれにせよ、もともと韓国ではもともとも国民的人気ジャンル、日本では新興ジャンルだったので、質問は「なんでJRPGの人気作ドラクエが海外で受けていないのですか?」に近い無茶な比較である……部分もあるかと思います。
最後になりますが、私はeSports×Uの計画・実施を担当していましたが、Riot Games Japanのマーケティング計画やデータなどを知る立場ではありませんでした。よって、本回答はRiot社の見解やマーケティングデータとは一切関係なく、あくまで私の考えとなることを書いておきます。
https://www.soumu.go.jp