私は在日コリアンなので韓国のことはよく知りませんし、韓国のことを知っているだろうと質問されることはハラスメントだと感じます。が、韓国のことは知らなくとも、日本人が抱く韓国イメージの歪み方については知っています。ここでは、日本人が抱く韓国イメージの歪み方について、いくつか論点を提供しておきます。（日本の総連系在日コリアンの話はまったくロジックが異なるため今回は省略します）

（1）日本は重要な国だという思い込み

常識的に考えて、韓国の人が（単なる外国の一つに過ぎない）日本を根拠に組織対立をする、と発想する時点で、すでに「おかしい」と気づかなければなりません。韓国にとっては、80年代末ごろまでは、日本に植民地支配されたことに対するショック（いわゆる植民地コンプレックス）が後を引いていました（ちなみに、日本は80年代前半ごろまで敗戦コンプレックスが論壇思想を支配していました）が、90年代以降はそれも和らぎましたので、現在では日本は単なる外国の一つにすぎません。

しかし、「日本は韓国にとって重要な国のはずだ」という思い込みがあると、韓国において日本の重要性が低下したという現実をうまく認められないようです。例えば、各種のメディアが、韓国で大統領選挙があるたび、候補者が「親日か反日か」といった話題に終始しますが、過去数回の大統領選挙で、日本のことが争点になったことはありません。日本の報道は、完全なデマだといってかまいません。

（2）ナショナリズムの位相の違い

日本と韓国とでは、ナショナリズムの意味が2つの点で根本的に異なります。

第一に、日本では、認知的にはナショナリズムはいけないものだと理解されているため、人々は、自分たちがナショナリズムを抱えているということに気づいていません。（国際比較調査によれば、日本の情緒的なナショナリズムは、諸外国よりも相対的に強いことがわかっています。）

それに対して、韓国では、ナショナリズムというのは、無条件に、いいものなのです。植民地時代、日本の特高警察によって生命の危険にさらされながらも独立運動に従事したこと、それが、韓国ナショナリズムのイメージだからです。いわば、個人の利害を超えた利他的な「公共心」のようなものなのですね。

第二に、日本では、ナショナリズムといえば、一つの意味しかありません。それは、郷土意識であり、かつ、国家意識です。それに対して、韓国では、ナショナリズムは二つの意味があります。民族意識と、国家意識です。韓国は分断国家なので、この二つが違う意味になるのですね。

韓国において民族意識nationalismといえば、韓国と北朝鮮を含む朝鮮半島の民族全体の利益を考える立場です。大国の利害によって内戦にまで追い込まれた歴史を反省し、北朝鮮を包摂しようとする立場、とラフにまとめることができます。

次に、韓国において国家意識statismといえば、北朝鮮とは違う大韓民国という国家を重視する立場を指します。反共を主是とし、北朝鮮を敵国として警戒する立場、とラフにまとめることができます。

（3）植民地支配をした戦前の日本への反発と、戦後（現在）日本へのリスペクト

韓国では、日本は基本的にリスペクトされる位置にあります。いまだに「韓国人は反日感情を持っている」と勘違いしている人はこれをなかなか理解できませんが、日本人は韓国において、他の国の人より優遇される立場なのです。ちょうど、日本において白人が優遇されるように。

にもかかわらず、日本人が韓国でレイシャルハラスメントに会う場面もあります。それは、戦前の日本をどう評価するのか、と問われる場面です。韓国人としては、戦前の日本を肯定するような悪い日本人とは付き合えない、ということなのでしょう。

しかし、日本人は戦前の日本に対する反省が不十分なので、戦前の日本を全否定する形で戦後日本の民主主義が立ち上がったのだという認識が日本社会で共有されていません。そのせいで、韓国人から「戦前の日本をどう評価するのか」と問われたとき、いまの日本人のことが悪く言われているように勘違いしてしまうことがしばしばあります。そして、それを指して、「反日感情」などと言ったりするのですね。

以上の3点が、基本となる知識です。

それを踏まえて質問への回答に移ります。「韓国のNL派左派」とありますが、これは第二の論点にかかわる問題ですね。まあ、民族主義者の中でも、NL派は北朝鮮寄りの国家主義statismに近い人も多いですが、総体としては韓国での二つのナショナリズムのうち、民族主義ないし民族自決nationalismを重視する立場の一つといえます。（より正確に言えば、誰それが主体思想派だとか、NL派が北朝鮮寄りの国家主義statismだとかいうのは、韓国のstatismを重視する人たちのプロパガンダであることが多いです。）

この立場を理解するためには、朝鮮半島が、日本、米ソ、などの外国によっていかに国家主権をないがしろにされてきたか、を知る必要があります。もし知っていれば、それらを警戒し、民族自決にこだわる立場の合理性が理解できるはずです。