ある方からうかがった話なんですけど、懐石などのストイックな日本料理を修行された方が独立して、港区あたりでわかりやすい高級食材を使った派手な高級和食店を開いたりするのを、業界内では「闇落ち」と呼んだりするそうです。なんと言いますか、羨望と同情とやっかみと称賛が入り混じった複雑なニュアンスを感じ、僕はうーむと考え込んでしまいました。

そういう店を紹介するインスタなんかで、カウンター越しに毛蟹とウニとイクラの乗った土鍋ご飯を斜めに向けてこなれた笑顔で写真にうつる大将の胸中やいかに、みたいな話ですかね。いやその場合、少なくともそういう役割をまっとうする覚悟は決まってるわけですし、わかりませんけど本心からそういうことがやりたくて頑張ってきた可能性もあります。なので質問者さんは全く心配する必要はないと思います。

あくまで僕が認識している範囲ですが「店主」という人種は、誰もがある種の自己顕示欲と共にあると思います。そうでもなければそうそうそんな立場の人間になろうとは思わないでしょう。毎日ひと目に晒される仕事であり、その結果として、方向性はいろいろですが、見た目もそれぞれ仕上がっていきます。それと同時に「いえいえ私は一介の職人ですから人前に出るなんてそんな」というクラフトマンシップを演出し続ける必要もあり、その按配もまた人それぞれ。

これは決してあざといとか腹に一物抱えているとかそういうことではなく、言うなれば、役者とかバンドのフロントマンとか、そういった役割と同じです。そういう人には案外本質的にはコミュ障が多かったりもしますが、店主も同じで、そういう「役割を任じる」ことでコミュ障ではないもう一人の自分になれることが本人にとっても魂の救済だったりもするわけです。

まあ店で直に見られるのと写真に撮られるとわかってポーズを取るのはまったく違いますから、仕上がってる人でも写真慣れしていなければ引きつってしまうのは仕方がありません。また、何らかの理由で写真にうつりたくない人は「いや本当に勘弁してください」と(クラフトマンシップ的なニュアンスを盾に)断ることはそう難しいことではないはずです。

なので質問者さんはそういう写真を見たら「良かったですね」あるいは「いい写真ですね」あるいは「まだちょっとこなれてませんね」など、素直な感想を抱いていただければそれでいいと思います。

9か月

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