ちょっと長くなりますし、細かい時系列はやや怪しいのですが、本をなりわいとするまでの流れを書いてみたいと思います。

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大学生になるまで、自分が本を書く仕事をするようになるなんて、まったく思っていませんでした。記憶をたどってみると、小学生時代に「自分は本を書く」みたいなことを文集か何かに書いたような気もしますが、どのくらい本気だったかはわかりません。

ただ、自分がどんな仕事を将来していくかについてのぼんやりとしたイメージはありました。それはミニマルでコンパクトなイメージです。つまり、たくさんの人を雇って大規模な何かをするとか、そもそも大きな会社に入ってバリバリ仕事するとか、そういうものではありませんでした。もっとずっとこじんまりとした、自分一人で何かをするというイメージですね。小学生の私が考えていた職業は、床屋さんとか、名探偵とか、数学者とかいったものでした。

ともかく、小学・中学・高校まではそのくらいしか自分の将来の仕事についてのイメージは持っていませんでした。

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大学時代、当時はコンピュータやプログラミングの雑誌というのがたくさん出ており、コンピュータに興味があった私はよく読んでいました。その中に「読者からの原稿を募集する」という記事があるのを見かけました。細かいことは忘れましたが、コンピュータやプログラミングに関わる内容なら何でもいいから、文章を書いて編集部に送ってほしいというものでした。

そこで私はコンピュータに関わるちょっとした情報を文章にまとめて編集部に送りました。それからしばらくして、細かな経緯は省きますが、編集部から連絡があっていくつか記事を書くアルバイトをすることになりました。

それから、雑誌に記事を書くようになり、やがて、いまはなくなったCマガジンという雑誌にプログラミングの連載記事を書くようになりました。

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あるとき、とある編集者さんから「結城さんは本を書かないんですか」と言われました。そのときまで自分が本を書くということは考えたことがなかったんですが、この一言が大きなきっかけとなりました。「そうか、私は本を書いてもいいんだ」と気付いたからです。

素直な性格というか、単純な性格というか……私はそこから本を書くことに取り組みました。特に依頼があったわけではなく、自分で知っていることについての本を書こうと思ったのです。ちなみにC++を使ってマルチウインドウシステムを作成するという本でした。

しかしながら、徒手空拳で何もわからないまま、いきなり書き下ろしの本を書こうという試みはうまくいきませんでした。最終章までは書いたのですけれど、どうしても書き上げるまでは至らなかったのです。

ということで、最初に書こうとした本は頓挫しました。

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あるとき、雑誌の編集者さんから、書籍を作っている部署の編集長さんを紹介していただきました。

結局、Cマガジンでの連載記事をまとめたものが、私の一冊目の本である『C言語プログラミングのエッセンス』になります。一冊目の本をまとめることは本当にたいへんなことでした。担当してくださった編集長さんには深く感謝しています。ちなみにこの編集長さんは、それから数十年にわたってお世話になりました。先日退職なさるまで、私の本のほとんどを担当・編集してくださったのです(!)。

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だいぶ長くなってしまいました。要約すると次のようになります。

  • ふと見かけた雑誌の応募記事に応じたのがきっかけで出版社とのつながりができ、雑誌に単発記事や連載記事を書き始めた。

  • とある編集者さんの一言で「本を書こう」と思ったけど、何もないところから書き下ろしをしようとした最初はうまくいかなかった。

  • 書籍編集部の編集長さんとの出会いがあり、連載記事をまとめる形で初めての本を出すことができた。

そこから先はほぼ毎年のように本を出してきました。その途中にはもちろん紆余曲折や本を書く仕事についての考察がたくさんあるわけですけれど、それはまた別のお話となります。

以上、何かの参考になればうれしいです。

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「本を書く心がけ」というマガジンには「本を書く」ということに関連した読み物が数十本ありますので、よろしければご覧ください。

◆本を書く心がけ|結城浩

https://mm.hyuki.net/m/m715a102cda18

以上で、あなたのご質問へのご回答とさせてください。

※この質問はスーパーレターとしていただきました。感謝します

7か月

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