きめ細かい泡を抽出する機能自体は、ほぼ全ての生ビールサーバーについています。なのでどんな店であっても、ビールメーカーの指導通りにちゃんと注げば、100点満点の生ビールが出せるはずなのです。
と、理論上はそうなのですが、実際はそこに様々な罠が潜んでいます。生ビールは基本そこからの「減点法」なのです。
ビール自体の鮮度が悪かったり(致命的)、樽の扱いが雑だったりしたら、減点です。
ビールサーバーはこまめな洗浄が必要です。怠ったら減点。(致命的)
グラスの洗浄が甘かったら、見えない油膜が粗い泡(カニ泡)を作ってしまうので減点。
グラスの乾燥が甘く少しでも水滴が付いていたらやっぱりカニ泡になるので減点。
かと言って布で拭いてしまっても見えない繊維がカニ泡の原因になるので減点。
グラスがぬるくても減点。
かと言ってジョッキを凍らせたら(好みは別として)泡と炭酸に関しては完全に減点。
ビールを注ぐ時のグラスの傾け方や、その後の起こし方が正しくないと減点。
その後泡だけを抽出する前に一呼吸置かないと減点。
万が一カニ泡が生じてしまった場合、それを掬って捨ててから泡を乗せないと減点。
注いでから素早く提供しないと、モタモタしてたら減点。
これらに関しては、普通ビールメーカーからしっかり指導がありますが、真面目に受講しない人や言いつけを守らない人が多いのも事実。
ビアホールやバーは、なまじ独自のこだわりがあったりするので、あえてメーカーの推奨を無視する店もしばしばです。特に歴史あるビアホールは、細かい泡を抽出する機能が無かった時代に確立された、ビールの自然落下であえてカニ泡を立てながら注ぐ技法を頑なに守るケースも少なくないので、好みは別として泡は細かくないことも多いです。バーではグラスを布で磨いてしまう光景も見たことがあります。ワインを愛しすぎるあまりにビールを蔑ろにする店、なんてパターンもあります。
いずれにせよ、完璧な泡の完璧な生ビールは、あらゆる条件を満たして初めて出現します。
高級店ほど、一杯一杯を丁寧に注ぐ傾向があるのは容易に想像できるでしょう。スピードと回転率に追われる低価格店は、その逆のことが起こります。高めのお寿司屋さんで完璧な生ビールに出会いやすい、というのは、決して気のせいではないと思います。
実は僕も、生ビールが一番おいしいと思っているお店は、とあるお寿司屋さんです。基本おまかせのみ、という僕があまり好まないスタイルの店なのですが、生ビール目当てに行きたくなります。
そしてその店が「一番」である理由は、注ぎもさることながらグラスの要因も大きいです。そこの生ビールグラスは、唇が切れそうな「薄はり」です。たぶんめちゃくちゃ高いやつ。最高です。
逆に安くて新しめの居酒屋なんかでよく採用されている「口径は細いのに飲み口は分厚いスリムジョッキ」は、最悪だと思っています。見た目の割に実注量が少なくて済むので、店にとっては都合いいんですけどね。あれだったら、サイザリヤとかのプラスチックの方がはるかにおいしいと思います。
とにかく、過度のせわしなさが無く、ケチケチする必要もなく、あらゆる仕事が丁寧で真面目、グラスにお金もかけられる、そういう店、特にそれが和食系だと、生ビールは100店満点に近くなりやすいってことになるのは確かです。
まあそうは言っても、最低限、鮮度と洗浄さえちゃんとしてたら、瓶ビールと同程度にはおいしいので、細けえことはいいんだよ、というスタンスも間違ってはいないと思います。僕もここまでいろいろ書いておきながらチャブ台返すようですが、実は一番好きなのはno topすなわち「泡無し」です。