100%確実な学術的な根拠をもって回答するのは難しいのですが、これまで有力とされていることを組み合わせて、私なりの解答をするとすれば、以下のようになります。

・触れるだけであれば0歳でも1歳でもよいが、親の手ごたえや負担を考えれば4歳か5歳ぐらいからで十分。

・日常的に日本語に触れている環境であれば、日本語の能力が劣るといった心配はほとんど要らないが、7歳か8歳ぐらいまでは第1言語(母語)で絵本の読み聞かせなどをして、十分に第1言語を育て、確立させることが、2番目の言葉を伸ばすうえでも重要。共通基底言語能力と呼ばれる能力があり、そこではさまざまな「概念」を発達させている。それをどう形式として表現するかが言語によって異なる部分だが、共通部分を伸ばすことが必要なので、第1言語を同時に伸ばしていくことが重要。

・ただ触れているだけでは意味がなく、5歳ぐらいでは、音の違いが意味の違いと結びついていることがわかるような環境であることが大切。例えば read が lead が異なる意味で使われることがわかる環境であれば、日本語では意味の区別とかかわらない /l/, /r/ が英語では意味の違いに関係するということが習得できる。(そして、その聞き分けの能力は脳の中で成人するまで保持されるとする説もあるし、実際、そのような人は少なくないようです。)

・日本語と英語のインプットは、相手や状況によって明確に区別されている方がよい。例えば、普段は日本語だけど、○○に行ったら英語、あるいは○○さんと話すときは英語というように。

・学習対象言語の社会的地位に子どもは非常に敏感なので、英語にしても何語にしても、その言語を話す人がいることが重要。特にその言葉を使って友達が作れる環境が重要。また、その言語を話すことで褒められたり、うらやましがられたりすれば、子どもの動機づけは上がる。逆にいじめられたり、あるいはそんな言葉を身につけても役に立たないなどといわれると、身につかない。(マイナーな言語の場合、これが問題になりやすいので、英語だけをありがたがるのは社会的に見てよいことばかりではないと思います。)

・/l/, /r/の使い分けといった音の問題(専門的には音素の習得)は学齢期前がよいと言われるが、文法(意識せずに正しい語順で話せる能力)が身につくのは7歳から11歳ぐらいだと言われ、語彙に関しては最も習得に適した時期(臨界期または敏感期)はないとも言われている。

・言語だけでなく、文化的な多様性に対する感受性・寛容度を高めたり、柔軟な思考力をつけるには、英語だけでなく、さまざまな言語に触れることにも大いに意味がある。文化の習得には9歳前後で「壁」があると言われており、私見では9歳ぐらいまでは多様なもの(言語だけでなく、五感のすべてに関わるもの)に触れればそれだけ寛容度や感性の幅を広げられる。9歳あたりを過ぎるとアイデンティティが確立されてきて、物事の見方にもある種の偏りが出てくるので、そこからは自分が気づかないうちに内在化している偏見や差別感などを、むしろ意識化して、それを意識的におかしいものだと考える訓練が必要になる。

考えればまだまだありそうですが、とりあえず重要だと思うのは以上のような点です。

以下に参考になりそうな本を挙げておきます。

中島和子(2016)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』アルク

中島和子(2020)『言葉と教育』第4版、海外子女教育振興財団

近藤ブラウン 妃美・坂本光代・西川 朋美(2019)『親と子をつなぐ継承語教育 ―日本・外国にルーツを持つ子ども』くろしお出版

2年2年更新

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松下達彦さんの過去の回答
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