残念なことに計算機は電気を食うんです。IT社会はスマートとかなんとか言いますが、背後で動いているのは巨大なデータセンター。膨大なエネルギーを人知れず消費し続けています。富岳はそれらよりはずっと小さいはずですが、それでも30メガワットの電力を消費します。家庭用の電気ヒータは1キロワットくらいですから、あれを3万台同時につけたときの電力に相当します。電力を消費すると、それは最終的にすべて熱に変わります。つまり、ほんとに3万台のヒーターをつけたのと同じ熱が発生するわけです。富岳は大きな体育館のような部屋に置かれていますが、それだけの熱はどこかに逃さないと部屋は暑く熱くなってしまいます。計算機の運転には、同時に強力なエアコンを必要とするのです。
熱を効率よく逃すには? エアコンで風を送るのも一案です。でもそれより効率的なのは液体、つまり水で熱を運ぶことです。計算機の中をラジエーターみたいに水の管を通し、熱くなった水を部屋の外まで流して冷やしてやる。水冷方式ですね。富岳は実際こういう方法で冷やされています。そのためには水漏れしないような管をCPUに密着するところまで通さないといけません。それだけ設計は難しくなるし、第一、計算機は大きく重くなってしまいます。
他にいい方法は? そうだ。CPUやメモリをまるごと水に浸けちゃえば? あとは水を循環させて建物の外で熱を放出すればいいだけ。名案ですが、難点があります。水が電気を通すこと。純水ならいいのですが、何かが溶けていると電気を通します。そうすると電気製品はショートしちゃって使い物になりません。え? あたりまえですって? そう。だから、電気を通さない液体があればいいんです。それがフロリナート、フロン系有機溶剤なんだそうです。これは電気を通さないから安心して計算機をどっぷり浸けてください。あとはこの液体を循環させて熱を取ればいいわけですね。ちょうど富岳が設計されていたころ、こういう仕組みをつかったスパコンが日本のベンチャー企業によって開発されていました。ところが、そこの社長が逮捕されちゃってうやむやになってしまいました。
事件はともかく、この方式の難点は、まずフロリナートの値段が高いこと。それだけならいいのですが、人体への健康被害が懸念されて訴訟騒ぎになっています。また、分解されにくいので長く環境に残ってしまうという問題もあるそうです。おかげでフロリナートを供給していた会社も生産中止を決めたというニュースが出ていました。なかなかうまくいかないものですね。
今日のおまけは、全然スマートじゃない。
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