日本以外の(欧米含む)多くの国では、記名式ではなく、パンチで穴をあけたり候補者の顔写真やマークをチェックする方式が用いられています。なので、世界的には手書き以外の方法の方が圧倒的に多いです。手書きでないと選挙がうまくいかない、ということは全くありません。

手書き(記名式)でない方式が必要な状況としては、まず識字率が100%でない地域で選挙をする場合には記名式投票は出来ない、というケースが挙げられます。現在の先進国では識字率はほぼ100%ですが、識字率が100%でない時代の方法をそのまま使っている面もあるでしょうし、識字率が100%ではない国もあるので、そうした国では現在でも記名式は出来ません。また、外国出身の日本人が増えてきて、日本語の読み書きができない有権者が増えてきた場合には、記名式は難しくなる可能性があります。

手書き(記名式)でない方法のメリットとしては、障害がある人(腕が不自由など)の負担が軽いという点が挙げられるでしょう。名前を全部書くのに比べると、特定候補にチェックするだけの方がはるかに容易です。

記名式のメリット(チェック式のデメリット)としては、候補者が多い場合の煩雑さが減るという点が挙げられるでしょう。特に非拘束式の比例代表の場合、非常に多くの候補者から一人を選ぶので、チェック式の場合には投票用紙は非常に大きくなります。実際、新聞のような投票用紙を渡して、それにチェックをする投票方法がとられている国もあると聞きます。この方式だと、票の管理(記名式投票用紙と比べてはるかに大きい)も集計作業も負担が大きいです。

記名式のデメリットとして「書き間違いや勘違いが生じうる」点が挙げられる場合もありますが、私はむしろ記名式は「投票者がミスをしたことを検出できる」という点で、これは記名式の間接的なメリットととらえた方がいいと思っています。

まず基本事実として、単純な書き間違いや表記ゆれ、略記(苗字しか書いてない、など)は、そこそこの範囲まで有効票として扱われます。もちろん、同じ苗字の人(山田太郎と山田一男)が出馬しているのに、「山田」としか書かなかったり「山田一郎」のようにどちらかわからない票を入れてしまった場合には、按分票扱いになります。これは一見するとデメリットに見えるかもしれないですが、そもそも山田が二人出馬しているにもかかわらず投票用紙に「山田」としか書かない(あるいは下の名前を間違える)人は、仮にチェック式であったとしても、「山田」がつく人をチェックリストの中に見つけたら、下の名前を確認せずその人にチェックしてしまう可能性が高いでしょう。すると、本当は「山田太郎」に投票したかったのに、誤って「山田一男」にチェックしてしまった人がかなりの人数現れると考えられます。要するにうっかりした投票者の投票ミスは、投票方式によらず発生します。(2000年アメリカ大統領選ブッシュ対ゴアで、パンチカードのパンチの位置で誰への投票なのか定まらずに大騒動が起きたことを思い出しましょう。これはむしろパンチカード特有の混乱です)

しかし、チェック式の場合には、「山田太郎だと思って山田一男にチェックした人」と「本当に山田一男がいいと思って山田一男にチェックした人」を区別する手段がないので、何か問題が起きたこと自体選管の誰も気づけません。これに対し、記名式であれば「山田」だけのような票、「山田一郎」のような混ざった票は、投票者の意図は選管には不明ですが、ともかく「投票者が正しく意図を伝えることが出来なかった」という事態が起きたことだけは選管は把握できます。記名式で、按分票や不明票がやたらと多くなったならば、選管は反省して次回に対策することが出来ます。チェック式では問題の存在さえ気づけないので、反省もできません。この点は、記名式の間接的な長所があると思います。

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