日本企業・経済において非常に重要な問題です。(米国においてもそうですが)日本の株式市場のキャッシュ・フローを見ると,既に資金調達によって投資家から企業に流れるお金よりも,株主還元として企業から投資家に流れるお金の方が大きい状況が続いています。つまり,平均的に日本の株式市場は資金調達の場というよりも還元の場になっています。また,上場している場合、金商法や東証の取り決めによるIR活動を行う必要がありそのコストは膨大です。さらには,上場している限りオーナーである株主と対話・コニュニケーションをする必要がありますが,それを嫌がる企業も一部存在するようです(ここら辺の話は村上世彰著『生涯投資家』において少し触れられていました。とても面白い書籍だったので是非読んでみてください)。

まとめると,おっしゃる通り,「なぜ上場しているのだろうか?」という上場企業は多く存在するにも関わらず,経営破綻というケースをのぞいて、自ら非上場化する企業はほとんどありません。非常に面白い現象ですね。

さて,本題のそうした企業がなぜ上場しているのか?という点ですが,上場維持のメリットと非上場化の困難さの側面からある程度説明できます。

  • 上場維持のメリット

(1)ブランド力の確保・取引先に対する信用の維持・優秀な人材の確保

上場しているということは厳しい上場基準を満たしているということであり、財務的安定性や継続的かつ公的なディスクロージャーにより信頼性が高まります。それにより上場企業であるというブランドが向上しますし、取引先やお金を貸す銀行からしても詳細な分析を必要とせず取引をすることができます。また、安全性や成長性などの他の条件が一緒であれば就活生としても非上場企業よりも上場企業に就職したいという意識は一般的であると思います。これにより上場しているということによりより優秀な人材を確保することができます。

(2)将来的に新株発行による資金調達をする必要が生じた際の手続きの簡略化

株式市場で広く新株発行による資金調達を行う場合、非上場企業の場合、上場するための審査が必要となります。その作業は膨大であり、コストがかかります。もし将来的に財務内容が悪化し、株式市場で新株発行する必要に備えて上場を維持しておくことには一定の合理性があるとは言えます。特に日本企業は倒産を避けたいというインセンティブが強く、こうした理由から上場を維持している企業が多いかもしれません。

  • 非上場化の困難さ

一般的に経営破綻を除けば、上場企業が非上場化するのは、経営者や従業員が株式を買い取り非上場化するMBO(Management Buy Out)、もしくは他社や親会社が株式を買い取る合併買収になります。このうち合併買収は自分で決めることではないので、自分(経営陣)で非上場化を選択するMBOを取り上げます。MBOを行うためには経営陣は銀行から多額の借入を行うなど相当のリスクを負うことになります。そもそもそれほどのリスクを負うくらいなら初めからその経営陣は起業家になってると思われるため、相当儲かることが約束されており、かつその儲かることが株式市場に認知されていない(過小評価されている)会社でないとMBOはなかなか行われません。つまり、一度上場してしまうと再度非上場化のは非常に難しいということです。

以上の理由から実質的には上場している意味のない企業が上場を続けているというケースが多いと思います。日本企業が全体として、上場を続けることのメリットが非上場化することのメリットを上回っているかどうかというのは非常に定量化の難しいですが、検証する意味のあるテーマだと思います。より検討を進めて抱けると幸いです。

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