執筆速度を上げるにはどうすればいいでしょうか?

プロ作家ですが、執筆速度(時間あたりの文字数)が遅いのが悩みです。

周りのいろんな作家に話を聞いてみると、

どうも自分の執筆速度はプロの平均値の半分くらいのようです。

アマチュアのころから筆が遅い自覚はありましたが、

そのときは何も考えず

「プロになった頃には書くことに慣れて自然と速くなるだろう」

と思っていたら、

結局何も変わりませんでした。

また、「執筆速度は意識で変わる! 初稿では推敲せずに書き進めるべし!」

のようなアドバイスはよく見るのですが、

やってみたら確かに初稿は早く仕上がったものの、クオリティが低く、

結局改稿に時間がかかって合計時間は同じでした。

今遅いのは実力不足として受け入れるしかないですが、

今後執筆速度を上げていくにはどんなことを意識すればよいのでしょうか?

三河先生は執筆速度が速いですが、何か意識してきたことはありますか?

それとも、元から速かったのでしょうか?

これは難しい話ですね。実は自分でも執筆速度の速さ、仕事の速さの原因はコレなんじゃないかという仮説をいくつも立ててみたことがあるんですが、最近になって、身もふたもない結論に至りつつありまして……。「もしかして、単純に体力(スタミナ)の有無なのではないか?」と。1日に何時間、高いパフォーマンスで稼働し続けられるか……それ次第で、だいぶ変わってくるなと思っています。とはいえ、身もふたもない話だけをしても仕方ないので執筆速度についてもうすこし掘り下げて論じてみますね。

そもそもですが、執筆速度とはいたずらに速くても無意味です。べつにどんな文章でもいいのであれば、1日2万字だろうと3万字だろうといくらでも書けてしまいます。けれど我々が書いているのは小説であり、小説としての最低限の質が担保されている文章を書けなければ、どれだけ速く書いたところで価値はありません。大事なのはただの執筆の速さではなく、「価値ある文章を執筆する速さ」です。そして価値ある文章をどれだけの速さで書けるかは、書こうとしている文章が作者本人の体にどれだけ馴染んでいるか、作者の現在の審美眼(作品を見る目、評価の厳しさ)、審美眼を越える能力があるかどうか、等で変わってきます。経験を積んでいき、体に馴染んでいけば自然と能力は向上し、速さも上がっていきます。

「執筆速度は意識で変わる! 初稿では推敲せずに書き進めるべし!」という意見を言うプロの方もいらっしゃると思いますが、これは、「誤字などの細かいことに気を取られずにどんどん先を書いていこう」ぐらいの意味であって、手癖で書いてもあるていど面白い、読める文章を書けることを前提としているような気がします。

小説としての文章、本人の文章が体に馴染んでおり、その上で自分自身の審美眼が自分の能力を越えない範囲のレベルである状態であれば、サクサクと書いていくことができます。

初稿のレベルをあるていど担保した上で限界まで速く書いているのだとしたら、それが自分の現在の最大速度です。それが遅いというのであれば、遅いことを受け入れるしかありません。自分のレベルを越えて速く書いたとしても、それはただ適当に書きなぐっているのと変わらないですから、あまり良いやり方とは思えません。

読者は速く書かれた作品を読みたいのではなく、良い作品を読みたいわけです。読んだ時の感想が良いものであれば、速く書かれていようと遅く書かれていようと関係ありません。なので、自分が読者を喜ばせられる作品(文章)を書けるギリギリの速さで書いていくしか道はないわけです。

そうして続けていくうちに、「自分の中では80%ぐらいに手抜きをして速さを優先して書いてるな~」という感覚の原稿が、他の作家さんが120%集中して書いた原稿以上のレベルになっていることも、きっとあるのではないでしょうか。

あともう1つ。私が意識していること(?)なのですが、私は基本的に「自分の中から素直に出てきた言葉」で小説を書いています。わざわざ難しい言葉を使おうとはしませんし、文章の読みやすさも過剰に意識しているわけではないですし、小説とはこういう文章を書くべきだ、みたいなことをいっさい考えていません。ただ、私は幼少期からかなりの量の読書をしてきた人間なので、おそらく素直に書いているだけでもあるていど「小説としての質を備えた文章」というものを引き当てやすいのだと思います。人によっては、素直に出てきた言葉だけで小説を書いたら、小説としての質が担保されないよ、という人もいるかもしれません。これが絶対の正解だとは言えないのが心苦しいですが……質問者の方にとって、すこしでもヒントになれば幸いです。

1か月

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三河ごーすと@作家/漫画原作者さんの過去の回答
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