「切る」と「切った」はそれぞれ現在と過去なので意味の点でおおいに異なる、なので異なる形(例えば過去形は cutted など)がふさわしいという議論、もっともです。よい質問をいただきましてありがとうございます。cut と read の変化について考えてみたいと思います。

まず、cut 「切る」の cut /kʌt/ - cut /kʌt/ - cut /kʌt/ のように無変化活用を示す他の動詞を考えてみますと、hit, shut, set などいくつか挙がります。いずれも t で終わっている単語であることに注意してください。さらにいえば、先立つ母音が短母音であることも共通点です。古英語からあるこれらの動詞は、本来的には他の通常の動詞と同様に、過去(分詞)には -ed に相当する語尾を付していたのですが、語幹末の -t と、過去(分詞) -ed 語尾に含まれる -d が同じ「歯茎破裂音」であるために、前者 -t に融合してしまうということが起きました。結果として、原形(現在形)と過去(分詞)が同形態になってしまったのです。これは音の都合による偶然の結果と考えてよいでしょう。

ところが、いったんこの「無変化」の傾向が定着すると、短母音をもち、かつ t (あるいは d)で終わっている他の単語も、この傾向になびいてきました。中英語期以降、cast, cost, fit, hurt, put, split, spread などの動詞が、この「無変化」タイプに集まってきました。

次に、read 「読む」を考えてみます。read /riːd/ - read /rɛd/ - read /rɛd/ ですね。綴字は一貫していながらも、発音は異なり、歴史的には cut よりも説明するのがやっかいです。この動詞は古英語では原形(不定詞)が rǣdan で、過去形は rǣdde、過去分詞は gerǣd(e)d という形でした。過去・過去分詞では語幹末の d と接尾辞の d とが隣接していることがポイントです。この音声環境により、直前の長母音が短化し、続いて脱重子音化が生じました。その後も様々な音変化が関与しましたが、結果として原形では長母音をもつ /riːd/、過去・過去分詞では短母音をもつ /rɛd/ の発音となりました。

r を l に替えただけの lead 「導く」は、lead /liːd/ - led /lɛd/ -led /lɛd/ のように、綴字と発音が一応のところ別々に振る舞っているので受け入れやすいのですが、発音に関していえば read と同じ歴史をたどりました。綴字について read と lead が異なる道筋をたどったのは非常におもしろい話題なのですが、ここでは説明を割愛します。

英語の不規則動詞を覚えるのは大変かもしれませんが、こうした歴史的な背景を知ると、単なるつまらない暗記項目で終わらずに、言葉のたどってきた歴史の妙味を知ることができ、楽しいですね。英語の歴史を学ぶことで、なぜこのような「不規則」が存在するのか、理解が深まるかと思います。

これからも英語学習を頑張ってください。疑問に思ったことを調べたり考えたりすることは、言語への理解を深める素晴らしい方法です。今回の質問のように、「なぜ」を追求する姿勢を大切にしてくださいね。

以下に、今回の話題に関連するコンテンツへのリンクを張っておきます。

・ hellog~英語史ブログ 「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2014-05-25-1.html

・ hellog 「#1858. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc. (2)」 https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2014-05-29-1.html

・ hellog 「#1345. read -- read -- read の活用」 https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2013-01-01-1.html

・ Voicy heldio 「英語の語源が身につくラジオ」「#199. read - read - read のナゾ」 https://voicy.jp/channel/1950/249788

2か月2か月更新

利用規約プライバシーポリシーに同意の上ご利用ください

堀田隆一さんの過去の回答
    Loading...