インスタで #お弁当 を検索してみました。

まずは「トップ」のタグからです。テカテカした美しい作品がズラズラ出てきました。なるほど、確かにおいしそうです。

次に「最近」のタグを見てみました。こちらは何だか見慣れた感じのお弁当がランダムに並びます。より実感が伝わってくる分、むしろおいしそうに見える気もしました。

しかし、質問者さんが作りたいのはおそらく前者の方なのでしょうね。これらには明らかに一定の傾向があるように見えます。言うなればトレンドですね。その特徴を要素に分けて抽出してみました。

 

【赤】

一昔前からお弁当の赤の定番は「プチトマト」です。これは現代においても重宝されています。ただしトレンドは断面を見せることのようです。それが単に置かれているのではなく軽く埋め込まれている。赤をなるべく奥にして、できれば上を白か緑で部分的に少し隠すのは盛り付けの基本です。

意外なのは梅干しがかなりの割合で使われていることでした。現代の食卓から梅干しは急速に退場していますが、お弁当では現役のようです。あからさまな着色の赤ではなく、程よくくすんだ赤がロハス感も演出していました。

もっと意外なのは懐かしい赤ウィンナーが結構使わらていることでした。ロハスとは真逆の食材ですが、適度な抜け感がいいねを稼ぎそうです。

世界観的にそれと近いものとして、ケチャップスパゲティを小さなフォークでクルッとまとめたのであろうものもありました。お弁当を作るたびにスパゲティを5本だけ茹でるとかはさすがに無いでしょうから、まとめて作って冷蔵庫保管でしょうか。周到ですね。

 

【緑】

トマトの赤と並ぶ伝統的緑はブロッコリーですが、こちらもしっかり現役です。大昔にパセリが果たしていた役割をしっかり受け継いでいます。

今回特徴的だったのは、ブロッコリーと併用してのフリルレタスの多用です。弁当にレタスを入れる事自体の是非は置いといて、作品において効果的に使われています。いったん蓋のことは忘れて、少しはみ出すように配置するのがコツのようです。

さらに印象的だったのがこのフリルレタスと大葉のダブル使い。おしゃれ上級者の重ね着みたいです。質感の異なる同系色をうまく使うとぐっと立体感が出ますね。

ブロッコリー以外の固形物では、オクラとスナップエンドウが目立ちました。ポイントは、オクラはプチトマト同様断面を見せること。そしてスナップエンドウは、パカっと割って中の豆を見せることです。律儀なことに割った片方に全ての豆を寄せています。もう片方の鞘はどこに行ったのかが気になります。

豆といえば冷凍むき枝豆も定番パーツのようです。串に一粒ずつ並べて刺しているのを見た時はちょっと感動しました。

 

【黄色】

[プチトマト・ブロッコリー・卵焼き]がお弁当の彩り三種の神器ですから、卵焼きももちろん健在です。しかし、今やそれを脅かさんとするものが半熟煮卵。皆さん上手に作りますね。既製品もうまく使われているようですが。そして当然これも断面を見せます。

卵焼きは海苔や青ネギなどが混ぜ込まれているものも少なくないです。これも断面化の大きな流れの中にありそうです。「賑やかな断面」は、どうも現代のお弁当全体を貫くトレンドのようです。

梅干しや赤ウィンナーがあるのだから黄色いタクアンもあるのではと予測していましたが、見つけられませんでした。そこまでやるとキッチュすぎるということなのか、もしくは卵は「絶対に」どこかに使うという暗黙の了解があるのか。

無国籍風のお弁当だと、オムレツや目玉焼きも結構登場します。

 

【黒・茶色】

なんだかんだ言って茶色がベースになるのはお弁当の常であり、それはトップタグのお弁当も例外ではありません。ただしさすが人気なだけあって、その茶色はどれもテカテカしています。油と砂糖を上手に使っているのでしょう。もちろん撮影時のライティングや、画像の加工にも細心の注意が払われているようです。トップタグと最近タグの印象を大きく分けるものがこのテカりです。

同じ茶色でも、このテカりを奥にしながら、から揚げのマットな質感が重なると、これまたぐぐっと立体感が出ますね。この時にから揚げの表面に揚げむらや焦げがあると一気に上質感が失われますが、この点も皆さんたいへん上手に仕上げています。最近の「から揚げ粉」の進化による恩恵もあるかもしれません。

 

【白】

白を担うのは当然「ごはん」ですが、最近のトレンドはそれをいかに隠すか、ないしは、いかに白単色のままで終わらせないかのようです。

ご飯を底に敷き詰め、上をほぼおかずで覆うスタイルも散見されましたし、ご飯がダイレクトに見えている場合も、海藻系や胡麻などが混ざられています。ですが醤油などで茶色く色付けされるまではいかない。あくまで白基調は保たれるようです。

ご飯の白は残しつつ、その面積を最小にするのが重要なようです。前述の大葉や梅干しでど真ん中を隠すのも定番テクニックのようです。

意外だったのは、一昔前まで定番だった「のりたま」がどこにも出てこなかったこと。これもタクアン同様、キッチュすぎるという価値観でしょうか。

 

【避けるべきことなど】

とにかく「のっぺりした単色の面」をいかに消すかです。かと言って決して幕の内弁当のように「ちまちま」しているだけでもないんですよね。ダイナミックさも重要。

そのために、ご飯は隠せ、野菜でも何でもとにかく割れ、卵焼きには何か混ぜろ、何か巻いて切った断面は大正義、ブロッコリーや鮭など天然のグラデーションはフル活用。

主役であるテカった茶色の面が広すぎる場合、そこに「糸唐辛子」を配置するちょっと前のプロみたいなテクニックも度々使われていました。

スナップエンドウ割りもそうですが、過去に飲食店で流行った盛り付けのテクニックが、時代を超えてうまく取り入れられている印象もあります。「枯れた技術の水平展開」ですね。

 

【弁当箱】

全体に対する単色面の比率を下げつつ賑やかさと立体感を演出するという意味でも、面積広めの弁当箱は有利なようです。あえて昔ながらのアルマイト風も結構使われており、何とも芸が細かい。

各所が繊細な分、振動や傾きには弱そうでもあり、これを持って満員電車に乗るのは辛いな、とか、中学生男子はそんなことお構いなしに振り回したりするんだろうな、とか、ちょっと気にはなりますが。

それを避けて、持ち運びに適していそうな小さめ深めの弁当箱になると、そこは完全に曲げわっぱワンダーランドです。曲げわっぱはズルいですね。セオリー無視で適当に詰めても確実においしそうに見えるところ、やっぱりそこでもここまで書いてきたようなテクニックは活用されますから、広めアルマイトに決して引けを取りません。

プラの弁当箱はそういう意味で初手からややハンディがあることは否めません。しかしもちろん、それをひっくり返して見事な作品を作り上げている人たちもたくさんいます。

アルマイトにしても曲げわっぱにしても(特に中学生男子が振り回す場合は)汁は漏れるのが前提ですから、撮影後の梱包時にその点をカバーする、見えない努力もなされているであろうことが想像され、頭が下がります。

 

【いかに近づくか】

誰もがこのようにイヤらしく分析した上で作品を作り上げているわけではないでしょう。インスタで見かけた素敵な弁当を何となく真似するだけで同じように素敵なものを感性だけで完成させるある種の天才がいて、それをまた天才が真似して、が繰り返されるうちに新しい技法も生まれ、そうやってスパイラル的に進化していったのがインスタ弁当の世界。

今は概ね廃れたようですが、一時期のキャラ弁ブームにより、テクニックだけが集中的に磨かれ共有、継承された時代もあったのかもしれません。その枝葉末節的技術が、今は丁寧な暮らし風の地に足のついた作品に生かされている。

なんとなく真似するだけで近づけない場合は(むしろそういう人の方が多いのではないかと思いますが)、あえて「完コピ」で練習してみるのはいかがでしょうか。あえて全パーツ、全詰め方を真似してみるのです。目標とする人を定めて、1週間分全コピだと、食材の使い回しなども含めてより理解が深まりそうです。X-Hiroshima みたいなもんですね。

思った以上の手間、それ以上に、シビアな食材選択が必要で、尚且つ余り物や端材の処理方法など見えないハードルがあることも理解しつつ、技術は確実に向上するはずです。

その時にその手間や各種ハードルが「毎日のお弁当作り」に見合ったものかどうかを判断しつつ、次は、どこまで現実的に妥協するかを決める段階に進めば良いと思います。

【追記】

質問文に「彩りではなく詰め方」とありましたので、最初は料理屋の懐石弁当的な、「あれは案外『縦に』詰めるもの」「ポイントになる食材をあえて数カ所に配置して吹き寄せ風に」などの技術をお伝えしようと思いましたが、実際にインスタ等に広がる世界が、そういうものとも全く異なることに気づきました。

そしてそこにおける「詰め方」が、やはり「彩り」や質感とは不可分という判断で、このようにまとめております。

1年1年更新

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