色々な答えはあるのでしょうが、3つに絞って答えてみます。

第1に、人生の半分以上をアメリカで生活し、子供をアメリカの小中高、そして大学、大学院まで送った親としての経験と、アメリカの大学の研究者としての二つの観点から答えてみます。日本で大学への受験勉強を経験した私と比べで、確かにアメリカの小中高の教育を見ていると、歯がゆいほど程度が低いと感じたことがあります。私の子供の教育を見ていて、アメリカの公立高校生は日本の中学校のレベルの教育を受けているように思えました。次に大学の教授の観点から見ると、最初の大学1-2年は特に数学系(微積分や行列代数)の授業に関して補習教育をしないと、本当の大学レベルの授業ができないのが現状です。

一方では、アメリカの教育の方が日本のそれより良いと思える面もあります。子供が小さい時に、毎週一回だったと思いますが金曜日にクラスの中で「Show and Tell」という時間があり、毎回、何人かの生徒が順番に自分が経験した、ないしはやり遂げた事等をクラスで紹介する時間です。例えば、家族で海外に旅行に行った時の経験とか、スキーがどれくらいうまくなったとか、昆虫に関して調べていて面白いことを発見した、自分が誇りに思えることを、絵や写真などを使ってクラスで説明する時間です。つまり、個々人の特異性を誇示する、そして自分の意見なり見解を堂々と紹介する機会が設けられ、自分で興味があって発見したものを発表するような「発見学習」のようなものに力を入れています。子供が関心のある事、経験したことを突き詰めて「研究」する姿勢を体得していくことに力を入れます。ここで「研究」とは英語でResearchですが、幼稚園くらいの子供ですら、このResearchと言う言葉を使って、例えば「I researched on …」等と発表の中で表現します。先生はその課題は面白いからもう少し歴史的な観点から調べてみてください…とか勧めてきます。つまり、アメリカの教育は多様性と創造性を重要視します。アメリカの教育システムは、暗記や反復練習よりも、問題解決能力や創造的思考を重視する傾向があります。これが新しいアイデアや革新的な解決策を生み出す土壌となっています。

このような教育を子供の時から受けていると、日本のように幅の広い知識は得られませんが、子供の関心事によっては、歴史や経済に深く関心を持ったり、数学や物理に深く関心を持ったりする子供が出てきます。日本とアメリカのどちらの教育が良いかは観点の違いによって異なってくると思いますが、アメリカの環境の中からある事に深く関心・好奇心を持った子供が成長してくることは確かです。

第2に、アメリカの高等教育研究の質の高さが挙げられます。アメリカの大学、特に研究大学は世界トップクラスの教育と研究環境を提供しています。これにより、高度な数学や科学の教育が行われ、イノベーションを生み出す人材が育成されています。その上に、産学連携体制が整っているので、アメリカでは大学と企業の連携が強く、研究成果が実用化されやすい環境があります。これが技術革新を加速させる要因の一つとなっています。

第3に、アメリカの大学・大学院に世界中(特に中国やインド)から優秀な学生が留学してきます。学位を取得後、彼らの多くはアメリカに移民して、アメリカの技術力の底力となっています。GoogleとMicrosoftの最高経営責任者(CEO)であるSundar PichaiとSatya Nadellaはそれぞれインド出身で、AIで知られるNvidiaの創始者Jensen Huangは台湾出身、Teslaの創始者のElon Muskは南アフリカ出身で、彼等がその典型的な移民の事例です。Appleの創始者のSteve Jobsもシリアからの移民を父としています。このような外国出身ないしは移民を親とした起業家達はアメリカと言う環境にいたからこそ、彼らのビジョンが実現できたのでしょう。

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小田部正明 (Masaaki Kotabe)さんの過去の回答
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