政党同士の関係がどう見えるかは人それぞれですが、過去の両党関係の歴史を見れば、現在もまだ平常の範囲内のように感じます。

 この問いが前提とする印象は、おそらく最近の衆院「10増10減」に伴う選挙区調整をめぐる紛争を見て生じたものと思います。しかし、これまでも同様の紛争はしばしば発生しています。「蜜月」に見えるのは、大きくならないうちに紛争が処理されてきたためでしょう。

 自公連立における公明党を、表面だけを見て「下駄の雪」と表現する向きがありますが、水面下では激しい交渉、紛争の類は頻発しているのです。そしてこれは、異なる政党が連立を組んでいるのだから当然のことと言えます。しかし、選挙での勝利と政権の維持という共通の目的の下に協調することを優先し、そのために事を大きくせずに歩み寄る意思や能力を、両党とも持っています。日本の他の政党が見習わなければならない点です。

 もっともそうした歴史は、今回の紛争がこれまでと同様に両者の歩み寄りにより収束するということを保証するものでもありません。両党の紛争は、地方レベルでの争いを中央レベルで抑えるという構図になることが多いですが、今回はこれまでに比べ、公明党中央も能動的に紛争のトリガーを引いているように見受けられます。

 当然これは、妥協を引き出すための手段という性格も強いと思います。自民党側からの比例票の融通をより多く受けるため、選挙区を人質にするというのは、これまでもよく行われてきたやり方です。しかし、以前に比べ公明党中央が表立って明確な発信を行っている印象です。

 このように紛争が表立つようになった背景は、自民党、公明党双方に考えられます。自民党側の背景としては、前の安倍(菅)政権に比べて自民党の公明党対策が軽くなっていることが想起されます。

 安倍政権は、アベノミクスや「保守的」な政策方針などの印象が強いかもしれませんが、それよりも「選挙に勝つこと」が行動原理の根幹となっていると解したほうがわかりやすい政権です。よく官邸が株価や支持率を気にしていることが揶揄されましたが、これも選挙のためです。

 そして、今の自民党にとって選挙での勝利の最も欠かせないピースが、公明党との協力です。公明党とのパイプが太い政治家を幹部に据えたのも当然そのためです。これに比べると岸田政権は、何か政治や政策で大を為したいという意欲が強く見える一方で、選挙での勝利への執着が低下しているかのように見えます。公明党側の意向を聞いて差配する組織的な能力も以前より低下しているのではないでしょうか。これは半ば憶測ですが。

 公明党の側から見ると、それはいら立ちに繋がるわけですが、一方で現在の政治状況はチャンスでもあります。21年衆院選で野党共闘によって接戦区が増えたこと、22年参院選や23年統一地方選で維新の会が伸長し自民党の票も奪われたことは、それだけ自民党にとっての公明党票の価値を高めるものです。自民党の危機は、公明党にとってより高く自分の票を売る(より強い要求をのませる)チャンスなわけです。

 公明党対策が鈍くなった現政権に対し、自分たちの価値(票)に見合ったより多くの要求を通すために、これまでよりも派手に対立的になっているのが、現在の公明党の姿なのではと考えられます。なので「終わりつつある」とは思いませんが、票を他党がより高く買ってくれるというなら(自公連立より高いリターンが見込めるなら)、連立が終焉を迎える可能性も当然あるでしょう。

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