九月と申します。くがつと読みます。ピン芸人をしています。僭越ながら考えてみます。基本的な立場は、「モチベーションが要らない方がよくない?」みたいな感じです。幾つか項目を分けてまとめますね。

  • 普段の活動について

いったん、普段の活動について紹介しておきましょう。自己紹介がてら。僕は普段、コントを作っては単独ライブで披露し続ける活動をしています。ほぼ毎週、新ネタを中心に15本くらいコントをやるライブをしています。15本って2万字くらいなので、毎週2万字書いている計算ですね。毎週、卒論を書いているペースです。懐かしいな。書き終わってから印刷する作業が大変だったりするんですよね。コントも書くよりやる方が大変です。

そして、月に一度くらいのペースで、48時間とか、72時間とか、一か所に閉じ込められて何百本とコントをやるライブをしています。「軟禁ライブ」と呼んでいます。そういうライブ、僕以外のお客さんは出入り自由で、僕は不眠不休でコントします。そういう長時間のライブで、最近作ったコントを仕上げていくようなサイクルの活動をしています。

ちなみに、今週末には大阪のお寺と兵庫のボドゲバーに閉じ込められるライブしてきます。煩悩のなさそうな場所から、煩悩にまみれてそうな場所へと軟禁をハシゴしてきます。「軟禁をハシゴ」ってなんなんでしょうね。よかったら遊びに来てくださいね。

さて、結果として、僕は把握できているぶんで年間1000本以上の新ネタをやっています。そしてこの活動を初めて4年目になるのかな。既にコントを800本くらいYouTubeに公開しているので、よかったらご覧になってくださいね。リンクを貼っておきます。「九月劇場」というチャンネルです。あと最近エッセイを書きました。そちらもamazonのリンクを貼っておきます。

好みかどうかとか、僕に興味あるかどうかとかは置いておいて、少なくとも「なんか、めっちゃハイペースで活動してそう」ということは伝わったんじゃないかと思います。

  • モチベーションについて

で、どうなんでしょう。モチベーション。凄い大切だと思う一方で、モチベーションを保つというよりは、モチベーションを消費しない仕組みを作ってしまうとか、あんまり気張らなくても何かを作れるようになることが大事なんじゃないかなって思います。

僕はたぶん、同業者の中だと群を抜いたペースで活動しています。でも、あんまりモチベーションが要るなとは思ってはいないんです。生きていて考えること、気になること、少しでも何かについて思ったことがあれば、割とすんなりコントに起こせる感じです。

これ、別にもともと意志の強い人間だとか、勤勉な人間だとかってことではないんです。「必要な電話をこなす」とかには結構モチベーションが要ります。

特別、コントを作ることにはあんまり精神的な消費がないんです。

初めからそうだったわけではありません。活動を始めた当初は、「月間15本作ること」を目標にしました。だから毎月「新ネタ15本ライブ」をやったんです。15本、文字数でいうと2万字くらい。凄くしんどかったのを覚えています。数が間に合わないし、出来も間に合わないし、でも目標として掲げた手前、やらなきゃいけないし。それこそモチベーションはあったんですけど、それに追いつく能力とか、習慣がなかったんですね。

でも、半ば無理してやっているうち、そのペースにだんだん慣れてきたんです。要するに、いっぱい作ろうと思ったら、いっぱい作れる無理のないやり方が見えてくるんです。結果、どんどん自分にできること、できないことが明確になりました。

  • 自分の身体で彫刻をやっているような感覚

例えば僕の場合、周りの芸人さんと比べると使える方言が多いんです。成育歴の都合、東北、関西、関東の言葉を、それぞれ3割くらいずつ喋れます。どれも3割なので、別に使いこなせるわけじゃないんですよ。ちゃんとした言葉が喋れない。ちょっと不利。人前で喋る仕事をするうえで、何ならコンプレックスでさえありました。

でもそれって、捉えようによっては凄くリアルな武器だなって思ったんです。自分のような成育歴の人間って世の中にいっぱいいるだろうし、「方言を使いこなせないけれど、その地域で生きて行かなきゃいけないから、何とかその地域の言葉を話している人」なんて、世の中にめっちゃ多いじゃないですか。だったら、そのキャラクターでやれそうな設定って、結構あるじゃないですか。

そういうふうに一つずつ自分の良さとか悪さ、使えそうなところを見つけていくうち、こういうのなら出来そうだぞ、という「自分の型みたいなもの」が分かってきたんです。その時期から、無理なく作れるペースが飛躍的に伸びたんです。だって、型がわかれば疲れないし、型がわかれば型に従わないこともできるじゃないですか。疲れずに色々やれるようになったんです。

これは48時間のライブとか、72時間のライブとかも同様です。常軌を逸した時間のライブだ、挑戦的な企画だとかって思われがちなんですけど、むしろ自分にとっては、正しい姿勢を捕まえたくてやっている節があります。そんな常軌を逸した時間のライブなんて、「自分にやれる方法でやる」しかない。だからこそ、どんどん心身が整っていく感じがあるんです。

ちょっとでも向いてないことをすると、疲れて倒れてしまう。その中で、自分に適した言葉の選び方とか、自分が本当に考えていることだけが浮き彫りになっていく感じというか。自分の身体で彫刻をやっているような感覚です。これもやっぱり、モチベーションが要るなって思ったことはありません。

  • モチベーションを使わずにいこうぜ

以上をまとめると、僕の考え方としては「モチベーションは最初はめっちゃ要るけれど、途中からはモチベーションがなくてもできるような仕組みとか、スタイルを作っちゃった方がよさそう」みたいなことになるのでしょうか。

これって、わりあい普遍的な気がします。モチベーションがない、モチベーションが欲しい、自分にはやる気がない、どうしよう、みたいに考えている時間って、結構それ自体が疲れるじゃないですか。そういう時間があることによって、むしろモチベーションがそがれていくというか。やりたくないことをやりたくないって思っている時間とか、やりたいことをやれないでいる時間とか、すげえ嫌な感じしますよね。

だったら、そういうことを考えずとも頭や手足が動いてしまうようなサイクルの中に自分を置いちゃうほうが、何かと手っ取り早いと思うんです。「モチベーションを出さなきゃ!」って思うと疲れちゃうじゃないですか。限りあるモチベーションは、必要な電話のために残しておきたいです。生活において致命的になるのはそっちなので。モチベーションに困る人ほど、モチベーションの節約をしていきましょうよ。

もちろん、そういう「モチベーションを消費しない状態」を作り上げるためには、結構なモチベーションが必要なんですけどね。

1年1年更新

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