モチベーションの重要度は100です。才能があろうが実力があろうが、描く気になれなかったら0なので。ただ、モチベーションの上下レバーが、他人からの評価で動いてしまう人は、モチベーションが逆に仇となってしまうことが多々あります。

他人からの評価というのは、褒められたい、ということですね。

「褒める」というのは、犬を飼ったことがある人なら全員知っていることですが、他者を自分の思い通りに動かす行為でもあります。

排泄と縄張りが紐づいていると言われている犬ですら、褒められ続けると、決められた一か所で排泄するようになる。

つまり、誰かから、たとえば担当編集から褒められることがモチベーションに大きくかかわってしまう、という方は、逆を言えばその編集者の望み通りの作品、その編集が描いて欲しいものを描いてしまうように知らず知らずのうちになってしまう可能性があるということです。

これは非常に怖いことで、その編集者があなたを高みに導いてくれる「褒め方」をしてくれている場合はいいでしょうが、目先のことしか見えていない編集者の「褒め」をインストールしていくと、結果あなた自身の頭の中が、一か所で排泄する犬と同じく発想が小さくなり、たとえば「安易な理解」で「今流行っているよくある作風」を「見かけだけ」覚えさせられてしまったとすると、その流行が去った時、「新鮮味がない」と新人にあっさり取って代わられ職を失うことになったりする。

これって本来はおかしいことなんですよ。だって、何年も描いていたら、その分上手くなっているはずなので。ベテランの作家は、表現の深み、技術力などなど、ありとあらゆる点でポッと出の新人を凌駕しているはずなので。

あっさり新人に場所を奪われるというのは、その作家でしか描けないもの、世界観を育てて来なかった証拠です。

なので、まず一番大事なこととして、モチベーションを自分の中に持ってください。

「描きたいもの」「描けるようになりたいもの」「目標」を自分自身が設定してください。

編集者の誉め言葉に嬉しがるのはやめましょう。

編集者が褒めるようなレベルより、もっともっと高い目標を自分に課してください。

主従を意識してください。

犬と人間の関係で言うと、何をしたら褒められるのか、何をすべきなのかを決めるのは、編集者ではなく作家であるべきです。

あなた自身が「ハラハラ手に汗にぎる漫画を描きたい」とか「胸がキュンとする物語を描きたい」と思ってください。

その高みを目指すこと自体に、モチベーションを抱いてください。

目指すものがある時は、自分の現状を知りたいはずで、編集者はあなたにとって鏡のような存在になっていきます。

服を試着する時のことを想像してください。

頭の中では似合う気がしていたけれど、着てみるとしっくりこない、思ったシルエットではないことってありますよね?

それと同じです。

書いてみると、読者目線では違う読後感の作品になることがある。思い通りの読まれ方をすることもある。

あくまでそれを確かめるための鏡に編集者がなっていく。

私が新人時代に担当させていただいた、今も活躍中のあるベテラン作家さんは、ネームは必ず対面で読んで欲しいという方でした。

そして、私がネームを読んでいる間、常にじっと私の顔を見てらっしゃいました。

「面白いです」とお戻ししても、「この部分で、私はドキドキさせたかったのに、畑中さんは顔色ひとつ変えずに読んでしまっていたから、直したい」と仰いました。

「いや、私、真剣に読んでたから無表情だったんです」と言っても、「私が目指すのは、他の人の漫画目当てで雑誌を買って私の漫画になんて全く興味もなかった読者を胸キュンさせてファンにすることだから、真剣だろうがなんだろうが、思わずドキッとしなきゃ負けなの。だからもう一回チャレンジさせて」と言って、ネーム直しをされました。

ある時は、少し意外なセリフがあって「どうして彼はこう言ったんですか?」とお聞きしたら、凄く素敵な理由を教えて頂いて「なるほど、最高ですね」と言ったら、「じゃあそのニュアンスがもう少し伝わりやすくするために、直し方を考えてみるね」と仰いました。

「畑中さんは私に聞けるし、私も答えることができるけど、何十万人という読者には説明して回れないから。漫画だけで『ああ…!』って思ってもらいたいから。その仕掛けが少し足りなかったんだと思う。気づかせてくれてありがとう」とお礼を言われました。

直しを出すのは常に作家さん側で、「もっとこうしたい」「こんな漫画をいつか描けるようになりたい」と目標を語り、「そのためにはどうしたらいいと思う?」「今の私にはなにが足りないんだと思う?」「一緒に考えて」「今の私に満足しないで。もっと面白いものが描ける作家だと信じて、気になることがあれば遠慮せず何でも言って欲しい」と言われ続けました。

あまりに高みを目指しすぎて、自分を苦しめてしまう作家さんも沢山も見てきたので、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしで、バランス良く、他人の誉め言葉を素直に受け取って喜べることも大事だと感じています。

が、「モチベーション」をどこに置くかは、作家でなくとも人生そのものに影響を与え、成長に関わる部分なので、やはり基本は他人からの評価ではなく、まずは「自分の描きたいもの」「自分がやりたいこと」に対してモチベーションを抱くことを私はおススメしたいです。

そうすると、モチベーションが沸かない時は、やろうとしてることが「あなたにとって退屈」なこと、「ルーティン」「簡単なこと」になってしまってるだけだと思うので、例えば「毛筆の方が自由が効かないから」という理由で筆で描いてみるとか、あなたにとって難しくてワクワクすることにチャレンジしてみてはどうでしょうか?

1年

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