地方交付税等の役割を問う素朴な質問ですね。

税収の不均衡を緩和する地方交付税

 政治学や行政学の入門の授業を受ければ聞くことがあるかもしれませんが、日本では、税の徴収と支出は中央政府と地方政府(自治体)でアンバランスとなっており、中央で多く徴収し、これを地方自治体に分配する形となっています。地方交付税はその主な手段です。

 自治体内で税収と支出を完結させないのは、そのようにすると自治体間で極端な収入格差が生まれるためです。特に法人税の影響は大きいです。企業が支払う法人税が、その企業の事務所等の所在自治体に全て入るようになれば、工場所在地の小自治体の税収が膨れ上がり、工場で働いている労働者が居住する周辺自治体では予算が大幅に不足することになるでしょう。

 

 地方交付税はそうした税収の極端な偏在を緩和するために存在しています。仮に地方交付税依存体質なるものがあるとして、それを無くすためには地方交付税を廃止するしかないでしょう。しかし、実際にそれを行ったら、9割を大きく超える地方交付税交付自治体の多くは収入不足となり、住民への公共サービスの質を下げざるを得なくなります。

 

税収の不均衡が生む合併しない小自治体

 もっとも、現在でも法人事業税・法人住民税や固定資産税の収入格差は著しく、それが社会的に適正なのかは問われています。原発事故の際には、被災は周辺自治体に広く及ぶのに、税収は原発所在自治体に集中することの不公平が議論されたりしました。

 

 近年、周辺自治体と合併しないで存続している一部の極小自治体の住民サービスが素晴らしいと称揚するような記事が散見されますが、企業の本社や工場、発電所などが立地していて税収が豊かなだけだったりします。

 

 東京都などの大都市圏を除くと、地方交付税不交付団体の多くは人口規模がかなり小さい自治体が多くを占めますが、税収を小さな地域で独占するために周辺と合併しないわけです。発電所などは、小さな自治体に進出したほうが政治的なコストが低く、地主を中心とした住民側も配分利益が大きくなるので受け入れやすいのでしょう。

 

 こうした現象は、自治体という制度を利用して少人数で既得権を維持しているものと評価できるでしょう。

 

自治体が「頑張る」と公共サービスの質が低下する

 そもそも、自治体が税収を求めて「頑張る」のは住民への公共サービスの実施という自治体の存在理由と整合しにくいものです。貧乏人を追い出して工場用地を作り、大企業にリベートを提供して呼び込むような形で競争することになります。

 

 残念ながら、補助金を投入して企業を呼び込む競争は現在でも日本全国で行われています。税収増などのリターンを期待してのことですが、実際、やってきた企業や工場がどれだけ利益を上げられるのか、その場所に居続けるかは未知数です。工場の廃止や移転で雇用減と税収減が襲った自治体の話はいくらでも出てきます。まともでない企業を掴まされることもあります。

 

 自治体が「頑張る」とは、結局は企業等への補助金や減税、経営者へのキックバックを自治体間で競争することです。企業誘致の成功は、批判的視点を欠いた地方マス・メディアでは“報道映え“するので、自治体や政治家の評価は一時的に高まったりします。しかし、中身を見れば、将来を考えれば、かなり酷いものです。こうした競争は永遠に続くので、企業の撤退に怯える自治体は補助金と減税、キックバックを続けざるを得ず、日本全体で見れば住民サービスは低下の一途を辿るでしょう。

 

 質問の「良い」がどの立場を想定しているのかはわかりませんが、多くの国民にとっては地方交付税の廃止は「悪い」結果をもたらす可能性が高いでしょうね。

6か月

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