初めまして。いつも回答を読ませていただいております。

私は今、漫画編集者との向き合い方で悩んでいます。

誰に相談するべきか、自分がどうすると心が楽になるか分からなくなってしまったので

良ければ畑中さんのご助言をいただけませんでしょうか。

私は現在、読み切り漫画の掲載をメインとしている月刊誌にて漫画家デビューを果たしました。

絵柄が良いと言う理由で編集者からスカウトされ、それまで漫画を真面目に読んだり描いたりした経験もない中

数本ほど漫画を制作できました。知識が無い中執筆出来たのはかなり厳しく担当さんから指導を受けたおかげです。

ただ、担当さんは本当に厳しい方で、容赦なくダメ出しをしますし(プロット段階でヒロインが可愛い子ぶってて好かない等…)

企画が没になった際、ダメな理由を求めた時には「自分で考えて欲しい」と突っぱねられた経験もあります。

「今まで他の作家にそんな事聞かれてこなかったから、説明は必要無い。他の漫画を読めば分かる」とまで言われました。

担当さんの言い方や指摘の仕方は本当に辛く、心にぐさぐさ刺さる物ばかりで

上手く作れない自分に嫌気が刺してしまったり、この人は私の事が嫌いなんだ。と悲しくなる毎日です。

担当さんが何を考えているのか知りたかっただけなのに。意見交換したかっただけなのに。

自分の作る物に対する自信が、どんどん無くなってしまいました。

担当さんは編集長の経験があり、名前を検索するかぎり編集者業を20年は続けているみたいです。

現在もかなりお忙しく業務をこなしており、新人作家の育成をメインでやっているらしく…

もちろん売れているベテラン作家の担当もしていらっしゃるようで

経験値の全くない私から見ると、実績だけなら魅力的な編集者に見えています。

なので、できる事ならこの方の編集知識や作品作りを最大限吸収して自分のものにしたいのですが…

突っぱねられる頻度が多く、頑張り続ける自信が無くなってしまいました。

漫画を描くことはとても楽しいです。今まで描いたこと無かったのに、声をかけてくれた担当さんのおかげでこの世界の楽しさを気づく事が出来たのです。

なので、基本的には感謝しているのですが、私も人なので寄り添う発言が無さすぎると

担当さんの事が嫌いになってしまいそうです…

掲載している雑誌も大好きです。出来る事ならここで頑張りたい気持ちもあります。

私はどうしたらよいのでしょうか。本当に悩んでいます。

どういう考え方でこの厳しすぎる担当さんと接していけば良いのでしょうか…

短編集の単行本が出せるまでは執筆を続けたいのですが

いま、半分ほど心が折れかけています。私は嫌われているのでしょうか。

本人に直接聞いても良いのですが、聞くタイミングは出版社との仕事を辞める時だとも考えております。

畑中さん、第三者からみてこの編集さんは問題があるのか

客観的に見てどうなのか、ご助言をいただけないでしょうか。

何卒よろしくお願いします。

結論から言うと、第三者からみて問題があるのかを考えるのをやめましょう。

世の中には全方位からみて正しいことなんて1つもないですよ。

長所と短所は必ず存在してしまう。

だから、あなたがどう思うかが重要であって、たとえ他人がどれほど賞賛しようと、あなたにとっての優先度で決めるしかない。

あなたが考えて、あなたが決断するしかない。

にもかかわらず、あなたはずっと他人の意見を気にしています。

担当編集者の情報を検索し、他人からどういう評価の人間か調べた。

すると困ったことに、実績だけ見ると魅力的な編集者だった。

「ダメ編集」という検索結果が出てくれば良かったのに、他の作家さんとは仕事で結果を出している編集者だと解った。

さて、ここからが重要です。

他人の意見を調べたあげく悪い結果が出なかったことを受けて、あなたが次にやったことは、私に「この編集さんは問題があるのか 客観的に見てどうなのか」と質問を投げかけることでした。

なぜそんなことを聞く必要があったのでしょうか?

検索の結果、担当者は仕事が出来る人だと解っても、依然としてあなたは嫌だと思ったわけですよね。

客観的情報を調べても、あなたの考えは変わらなかった。

にもかかわらず、なぜまた他人である私の意見を聞くのでしょうか?

私から「別に問題はないかと」と言ってもらえたら、この編集者との仕事が急にいいものに感じるようになれると思ったからですか?

違いますよね。

私でも誰でもいいから、「この編集者はダメな奴」と言ってもらいたかったからですよね。

あなたは自分では決断しないくせに、どうしてもどうしても、自分の思い通りのことを他人から言ってもらいたいと思ってる。

自分が望む意見が他人から出てくるまで、周りに聞き続ける。

つまり、他人の意見なんて最初から欲してないんですよ。

意見を聞く気はないのに、自分の決断ではなく「他の人もこう言ってる」と他者のせいにする方法を探している。

…おそらくですが、担当者の言ってる「自分で考えて欲しい」という言葉は、今回の相談文からでも読み取れる、あなたの「頑固なくせに、他人からの許諾を得たい」という思考のクセへの指摘から出ているものだと思います。

担当編集者のことを、”本当に厳しい方で、容赦なくダメ出しをしますし”と書いた次の行で”ダメな理由を求めた時には「自分で考えて欲しい」と突っぱねられた”と書く。

つまり、容赦ないダメ出しと言いつつも、例に出されていた「ヒロインが可愛い子ぶってて好かれない」というダメ出しは、ダメな理由としては受け取ってないということですよね。

担当編集の意見を受け入れないこと自体は、全く問題ないです。

「可愛い子ぶってる子のなにがダメなの? 可愛い子ぶったっていいじゃん!!」 

それが作家としてのあなたの美意識ならそれでいい。

「どこを読んだら、この子が可愛い子ぶって見えるのか? そんなキャラのつもりで書いたんじゃないのに…」

と思ったなら、それでもいいです。

作家として、あなたが担当編集という他人からの意見を受けて、考えるべきことはたった1つです。

どうやったら読者の感想を変えることが出来るか。

「可愛い子ぶってるヒロインで魅力がないっていう感想を持たれちゃったけど、可愛い子ぶってる女は最高!って思わせたかったんだよな…。どうやったら魅力が伝わるかな…。もっといい描き方はないか…」

とか、

「全然違うキャラを書いたつもりだったのに、なぜ感想が可愛い子ぶったヒロインになってしまったんだろう…。どこでそんな齟齬が出たのか…。自分の表現したいキャラとしてちゃんと読んでもらえるようにするには、どう表現しよう…」

など、担当からの「現状こう読めます」という感想を受けて、自分のやりたいこと・自分の描きたいことに合わせて、どうしたいかを考えるのが作家さんの仕事です。

そもそもなんですが、新人さんの多くは、自分の思った通りに表現出来ません。

立方体を描いて、それがコンクリート製なのか、蒟蒻なのか、はたまた土の塊なのか、上手い人なら描き分けできますが、下手な人は描き分けれないですよね。伝わらない。

それと同じように、文章にしろ演出にしろ、作家が「描いたつもり」のものを、ちゃんと他人から見てもそう見えるように表現するというのは、なかなか難しいことです。

だから、担当編集者がいるんです。

思った通りのものが出力できているか確認するために存在している。

鏡みたいな存在です。

頭の中でコーデを組んだ時は良さそうだったけど、実際合わせてみたら変とかあるじゃないですか。

あれと一緒です。

だから、あなたの担当は「今の状態は、こんな感想を抱いちゃう見え方になってますよ」と正確な鏡としての感想を言ってるわけです。

ネガティブな感想だった場合、それはダメ出しになる。

さて、そこから「なぜ可愛い子ぶってる子はダメなんでしょうか?」と聞かれても、編集者は困ってしまいます。

なぜなら、別に可愛い子ぶっててもいいからです。

魅力的なら、別に問題無い。

好感度が低いヒロインだったとしても、漫画として面白いならそれでOKなんです。

編集者の意見なんてない。

むしろ編集者は全て正解だと思っていないといけない。

だから重要なのは、作家であるあなたの意志です。

あなたがそもそも何を描きたいと思ってて、現状の感想に対して、どうしたいと思ってるのか。

あなたが考えないと。

あなたが「可愛い子ぶった子を魅力的に描きたい」と決断することによって、「可愛い子ぶるという行為をどうやったら他人に素敵なことと思わせることが出来るか」という次のステップに進めます。

あなたが「全然違う子を描いたつもりだったのに、表現が拙いせいで読み取り違いをされてしまった。本当はこういう子を描いたつもりだったんです」とあなたの意志を話すことで、「どうしたら思った通りのヒロインに見えるようになるのか」という議論に進めます。

なのに、おそらくですが、あなたは自分の意見をちゃんと持ってるのに、担当の意見・考えを聞いちゃうんじゃないですか?

「可愛い子ぶった子はやめた方がいいですか?」とか他人に考えを聞いては、自分と同じ意見ではなかった場合は聞き流し、自分と同じ意見を担当が言ってくれるまで「考えを知りたい」と質問し続けてしまう。

今回の質問と同じような状況が、打ち合わせの場でも起こってしまってるんじゃないですか?

……私にはこの編集者が本当に嫌な奴なのか、それとも良い編集者なのかは解りません。

物言いが本当に酷いのかどうなのかも、解りません。

でも、たとえ100人の作家さんのうち99人がいい編集だと言ったとしても、あなたにとってNOなら、NOでいいと思います。

あなたがどうしたいのか、自分の意見で決断してください。

自分の意志で、行動できるようになってください。

それが出来るようになりさえすれば、担当を変えようが変わるまいが、雑誌を変えようが変わるまいが、色々道は開けると思います。

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