コーセーの声明は優越的地位の濫用には当たらないものと思われます。
独占禁止法は、19条で「不公正な取引方法」を禁止し、その定義は、2条9号に置かれています。このうち、5号が「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」として、イ購入強制、ロ経済上の利益を提供させること、ハ相手方に不利益となるような取引条件の設定・変更又は取引の実施という3つの類型を規定しています。
そうすると、優越的地位の濫用であるというためには、「優越的地位を利用」し、上記のいずれかに該当する「濫用行為」をして、その結果として取引主体の自由かつ自主的な判断による取引が妨げられるおそれが生じる必要があるということです。
これをお尋ねのケースについて当てはめますと、まず芸能事務所とスポンサー企業とのどちらが優越的地位にあるかという問題があり、一般論としてはスポンサー企業側かもしれませんが、当該ケースでは、事務所側がマスコミや出版社等に対して長年にわたり優越的地位の利用を行っていたかのような報道も出ており、見解が分かれるところでしょう。また、「濫用行為」も当該ケースには認めにくいです。すなわち、(購入強制や利益提供強制には当たりませんので)ハ相手方に不利益となるような取引条件の設定、変更又は取引の実施に該当するかが問題となりますが、これは受領拒否、不当返品、支払遅延や代金減額等の行為が通常想定されており、個別の契約の前提段階において具体的提言を行うようなケースは含まれないものと思われます。文言上は、「不公正な取引方法」として別に規定されている取引拒絶の方に近いと言えますが、こちらも「不当に」との要件が付されており、正当な理由なくして公正な競争を阻害するおそれを生じさせたといえる必要があるところ、本件は事務所側の法令遵守・人権擁護等に反する重大行為が明らかになっているケースですので、企業コンプライアンスの問題として、法令遵守等の社会的価値の尊重が個別ケースにおける取引自由に優先されるものと思われます。