では歴史学部について。
歴史学は「過去にあったなにかを証明する」学問ではありません。
たとえば「ナポレオンが最強の武将であることを証明する」のは大学では無理でしょう。
また、ナポレオンを始めとした有名どころは先行研究が山のようにあるので、
新たな研究を発表すること自体難しいです。
在籍中になんらかの研究成果(卒論)をあげねばならないので、
有名所以外の歴史研究も楽しめるのが学部に入る上では重要でしょう。
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では歴史学とはどういう魅力があり、どのように研究をするのか?
歴史学部ではまず読まされるであろう入門書『歴史とはなにか』にはこうあります。
歴史の二重性格が課している条件をここで思い出してみましょう。歴史から学ぶというのは、決してただ一方的な過程ではありません。
過去の光に照らして現在を学ぶというのは、また、現在の光に照らして過去を学ぶということも意味しています。
歴史の機能は、過去と現在との相互関係を通して両者を更に深く理解させようとする点にあるのです。
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要するに、歴史学は過去を眺める”だけ”の学問ではなく、現在の視点で過去を見るだけの学問ではありません。その両方である、という訳です。
実際にはこういう流れになります。
Aさんは中世ヨーロッパは暗黒時代で、ろくでもない時代であると考えていました。
なのでその証明をするために先行研究を当たります。
すると、中世という時代はAさんが予想したよりも文化的にも文明的にも実りの多い時代で、
少なくとも「中世はろくでもない時代だ」と卒論に書けないことがわかりました。
他方、中世は過去ではあります。
実りが多いとはいっても、後に控える科学革命の時期に比べれば中世のそれは乏しいとは感じるでしょうし、現代と比べれば言うまでもありません。
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ここで、「現代の視点」が重要になってきます。現代の視点とは「あなたの視点」です。
歴史は何度も書かれています。誰それが死んだという程度の事実なら、今更付け足すことはありません。
他方、ある視点に集中して研究する試みは前例が少なかったり、やる人によって異なります。
「中世の経済」をテーマに複数の人が研究をしたとしましょう。
Aさんは経済の全体に興味があったので、都市間の商品の流れや経済網といった全体を調べました。
Bさんは貧富の格差に興味があったので貴族と庶民の生活を比較しました。
Cさんは性差に興味があったので、男性の貴族と女性の貴族、男性の職人と女性の職人の資料を集めました……
このように、何に興味を持ち、どのような情報を集めるかによって研究は変わってきます。
ここであげた3人は間違いなく別の事実を元に別の結論を導き出すことでしょう。
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歴史は広いのです。だからナポレオンや信長のような”たかが一人”に執着するよりは、
すでに書いたように自分の、自分だけが持つような興味に従って知られた事実から新事実を見出すのが良いでしょう。
もちろん、有名どころにも今までにない視点を持ち込むことができたらなら、新しい研究成果を出せるかもしれませんが。