ご質問を読むと「数学が苦手」の例として「(問題を解くときに)全く見当違いの解法を試してしまう」と書かれていました。これだけで決めつけることはできませんけれど、「数学が得意になる」というよりも「数学の問題を解くことが得意になる」ことに注目なさっているのでしょうか。

もちろん数学の問題が解けるようになることは大事ですけれど、その前段階として、そこに登場する数学的な概念を理解することがとても大切です。なぜなら、たとえば試験で出題される数学の問題(特に基本的な問題)というのは、まさに「数学的な概念を理解しているか」を問うているからです。

数学的な概念(たとえば関数、極限、微分、数列の和、積分……)を学ぶときには、それがどのようなものであるかという「定義」や、それに対してどのような「性質」があるかを学びます。そして「定義」や「性質」を理解し、必要ならば記憶しているかを問うているのが基本的な数学の問題です。

言い換えるなら、数学的な概念を正しく理解していれば解けるし、正しく理解していなければ解けないようになっているのが数学の問題といえます。もちろん問題はそれだけではなく、難しくなると、複数の概念を組み合わせたり、性質同士の関係を考えたりする必要がでてきますけれど、それにしても数学的な概念を理解しないことには話は始まりません。

「理解」というのは心の中、頭の中で起きることです。数学の教科書を見たときに、知らない用語が出てきたときに「うわっ、わからない〜」となるのではなく、その用語が表している概念がどのような「定義」になっているかをたんねんに調べましょう。あるいはその概念にどのような「性質」があるかをじっくりと考えましょう。

数学的概念を自分が理解したかどうかをチェックする有効な方法があります。それは具体的な「例」を作ってみることです。わたしは『数学ガール』という数学読み物をここ十数年書いていますが、そこに登場するスローガンに《例示は理解の試金石》というものがあります。これは、

  • 具体例を作ることができたら、自分は理解している

  • 具体例を作ることができなかったら、自分は理解していない

という意味です。数学の教科書には日常生活から離れたように見える抽象的な概念がたくさん出てきますが、数学的な例もたくさん出てきます。それにならって、自分も具体的な例を作るのです。具体的な例を作ることが難しかったら、教科書に書かれている例が、どうしてその概念の例になっているといえるのかを考えてみましょう。

そのような勉強の仕方は時間も掛かるし根気も必要になりますが、非常に大切なことです。しかし、いったんコツがつかめると勉強自体が楽しく感じられるようにもなってきます。がんばってください。

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関連があるかもしれない読み物にリンクします。

◆数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話 | 結城浩

https://note12.hyuki.net/

◆《自分の理解に関心を持つ》(前編・後編)(結城浩ミニ文庫)|結城浩

https://mm.hyuki.net/n/nca5303eac345

◆学ぶときの心がけ|結城浩

https://mm.hyuki.net/m/m4e998a7b06c9

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