「be動詞」という名称についての素朴な疑問ですが、考えたこともなかった角度からの質問で意表を突かれました。確かに一見すると「be動詞」という名称は大仰な感じがしますね。この問題について考えてみます。

今回の質問を受け、「○○動詞」という表現には2種類の解釈があるのだなと思いました。○○の部分の役割が異なるようです。

1つ目は、○○の部分が形容詞として機能し、文法的・意味的な観点から動詞の種別を表わす場合です。例えば、規則動詞 (regular verbs)、不規則動詞 (irregular verbs)、他動詞 (transitive verbs)、自動詞 (intransitive verbs)、動作動詞 (action verbs)、状態動詞 (stative verbs)、使役動詞 (causative verbs)、変移動詞 (mutative verb) などがあります。英語の用語では、それぞれ形容詞が用いられていることが分かります。いずれも動詞のグループを意味するので、各々には複数のメンバーが含まれていることになります。

2つ目は、質問者が挙げられた「be動詞」のような呼び方です。英語では the verb "be" ほどでしょうか。この場合の○○の部分は「同格」を表わし、「be動詞」は「beという動詞」ほどの意味になります。「be動詞」には be という単一のメンバーしか含まれていないので、先の例のように動詞のグループを表わすという趣旨は濃厚ではありません。類例としては「have動詞」という言い方もたまに聞かれます。ここでも have しかメンバーがいないので、「haveという動詞」ほどの意味になりますね。

be や have は、英語に多数ある動詞のなかでも特に高頻度で使用され、重要な文法的役割を担っているため、「別格扱い」でそのように呼ばれることがあるのだろうと思います。とりわけ be について、その特殊性を挙げてみます。(詳しくは回答者のブログ記事「#3284. be 動詞の特殊性」をお読みください)。

1. 英語の他のあらゆる動詞よりも多様な変化形をもつ

2. すべての他の動詞では、現在形において有標の形態をもつのは3人称単数の -s のみだが、be 動詞では1、2、3人称のそれぞれにおいて異なる形態を示す

3. be では、強勢のある発音と強勢のない発音が区別される

4. 代名詞と接続して、twas (< it was), wast (< was it) のように融合する。また、you're, I'm, aren't, weren't などの縮約形を示す。

5. be 動詞は3つの非常に異なる文法機能をもつ。1つ目に「存在する」を意味する一般動詞として、2つ目に進行形や受動態を作る助動詞として、3つ目に連結詞 (copula) としてである。他の動詞でここまで多彩な機能を有するものはない。

なお、be は「be動詞」に所属する単一メンバーではありますが、しいて所属する別のグループを持ち出すのであれば「連結(動)詞」 (copulas, linking verbs) の名前を挙げてもよいでしょう。連結動詞のグループには、be のほか become, seem, appear なども含まれます。

メンバーが単一であるようなグループに、その単一メンバー自身の名前をつけるというのは、確かに考えてみれば妙ですね。しかし、回答を書きながら、今回とは逆の例に思い当たりました。「定冠詞」のグループには the しか含まれていないのに「the冠詞」とは言いませんね。「不定冠詞」のグループにも a(n) しか含まれていないので「a(n)冠詞」でも良さそうに思われますが、そうは言いません。文法用語の名付けの問題は奥深いですね。

1か月

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堀田隆一さんの過去の回答
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