ゲーデルの不完全性定理について、内容まで含めてここで簡単に説明することはとても難しいです。簡単に説明すると、あまり意味のない説明になるか、専門的な説明になるか、誤解を招く説明になってしまうからです。

ゲーデルの不完全性定理は、クルト・ゲーデルという数学者が証明した数学の定理です。数学の中でも論理学(数理論理学、数学基礎論)と呼ばれる分野の定理になります。

ゲーデルの不完全性定理は数学の定理ですから、理解するためには数学の知識が必要になります。特に形式的体系と呼ばれるものについての理解が必要で、これは中学や高校では学ばないものです。

ゲーデルの不完全性定理はたいへん誤解されることが多い定理で、どういう誤解があるかをまとめた本まで刊行されているほどです。

これは私の個人的な考えですが、ゲーデルの不完全性定理がとても頻繁に誤解される理由は、そこで使われている用語の意味が誤解されるからです。ゲーデルの不完全性定理に出てくる「不完全」や「証明」という言葉の意味は、一般の人が考える意味とは異なります。「不完全」とは形式的体系の性質の一つですし、「証明」とは形式的体系で、とあるルールに従って並べられた論理式の列のことです。

あなたの「自分が証明しようとする命題が、証明可能かどうかもわからないということですか?」という質問に対しては、「いいえ、そういう話ではありません」が答えになります。この質問で使われている「証明」や「証明可能」という言葉の意味は、ゲーデルの不完全性定理に出てくる「証明」や「証明可能」とは違います。「ゲーデルが証明した」というときの「証明」という用語と、不完全性定理の中で取り扱っている「証明」という用語もまた意味が異なります。

そもそも、一般の人は「数学」というと一つのものをイメージしますが、数学者(論理学者)は無数の形式的体系を作り出し、比較し、研究します。それぞれの形式的体系がどのような性質を持っているかどうか(たとえば「不完全」かどうか)や、どんなことがその形式的体系で「証明」できるかを研究します。

ゲーデルの不完全性定理は、ある特定の性質を持った形式的体系が「不完全」と呼ばれる性質を持っているという定理です。その性質を使って、形式的体系同士の比較研究などができます。ですから、ゲーデルの不完全性定理は、論理学の研究においてたいへん重要な定理の一つとなります。

私が書いた『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』では、できるだけ誤解を招かず、一般の方でもそれなりに雰囲気をつかんでいただけると思いますので、よろしければそちらをお読みいただければと思います。拙著では、集合と論理の話をした上で、簡単な例を使って形式的体系のイメージをつかんで、論理学のおもしろさの一端をちらっとのぞきます。最終章ではゲーデルによる不完全性定理の証明の論文をプログラム風に示しています。

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結城浩さんの過去の回答
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