急激な減圧で人体が破裂するというのは良く語られているところだけど、実際の事故事例から破裂しないという証拠が挙がっているんだよね。ただし、これらの事故の状況を間違った解釈で見たり組み合わせると、人体が破裂するっぽい状況が生み出されるので、ここら辺に勘違いの原因があるんじゃないかと思うんだよ。

宇宙空間で起きた死亡事故として現在唯一記録されているのは、帰還時の空気漏れで3人の宇宙飛行士が死亡したソ連のソユーズ11号の事例だけど、遺体にはパッと見で分かる外見上の損傷はなかったと記録されているよ。外見上見られるのは鼻と耳からの少量の出血、および皮膚の青色の斑点であり、死因は脳出血だとされたよ。これらのいずれも血管の損傷によるものだけど、その原因は、急激な減圧によって血液が酸素や窒素を溶かしきれなくなり、泡立つ事によって血管の脆い部分を破ったため、と考えられているんだよね。 (急激な減圧で気体が溶けきれなくなり泡立つというのは、炭酸飲料のボトルを開けると泡立ちが強くなったり、時には噴き出すのと同じ話だよ)

また、こちらは幸いにして後遺症もなく回復した事例だけど、後にアポロ8号と13号に搭乗するアメリカ人宇宙飛行士ジム・ルブランは、1966年に宇宙服のテストを行っている際に急減圧に晒されたことがあるよ。1気圧が1013hPaなのに対し、このテスト中の事故では10秒間で262hPaから7hPaへの急減圧を記録していたよ。ルブランは14秒意識を保った後に低酸素症で意識を失ったけど、後のインタビューでこの時の体験について「舌の唾液が沸騰するのを感じた」と述べているんだよね。

宇宙の事例では1気圧から0気圧への1気圧差の減圧だけど、深海に潜るような作業の場合にはもっと気圧差の大きい減圧があるため、理論的には真空に晒されるよりもひどい状況に晒されるわけだけど、こちらでも人体が破裂するような極端な状況は起きてないよ。1983年にバイフォード・ドルフィンという掘削リグで5人が死亡した減圧事故の場合、9気圧から1気圧への8気圧差の減圧で、ソユーズ11号の事例よりもひどい状況に晒されたわけだけど、やはりこの時にも、減圧を直接の死因とする4人の遺体について、外見的には無傷と記載されているんだよね。

このように、過去の事例から人体は宇宙空間に放り出しても破裂しない証拠がある訳だけど、なぜか破裂すると語られる理由は、次のことを組み合わせた結果ではないか?と私は思うんだよね。

  • 減圧で生じる「血液中の酸素や窒素が溶けきれずに泡立つ」が、血液自体の沸騰と勘違いされている。

  • ソユーズ11号のケースでは、血管の損傷によって耳や鼻から少量の出血があった。

  • ジム・ルブランの事例は「舌の唾液の沸騰」だが、これが「舌の細胞の沸騰」と勘違いされている。

  • バイフォード・ドルフィンの死者のうちの1人は、気流が抜ける狭い隙間に無理矢理押し込まれたことによって人体が切断されたことによる即死とされている。ほぼ全ての内臓が体外へと押し出され、体組織の一部が10m先まで飛び散るような凄惨な状態なので、これを「破裂した」と勘違いしてもおかしくはない。

いくつかのキーワードを組み合わせれば「急減圧によって人体が破裂した」と間違えるような状況があるので、この辺が勘違いに繋がっているのではないかな、と私は考えているよ。

7か月

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