「すごいといえないことでもすごいと思われるように伝える」ということを落ち着いて考えてみると、悪いとまではいえませんが、けっこう危ない考えじゃないかと思います。というのは、そういう伝え方を繰り返していると、下手すると周囲の人から「あの人はたいしたことじゃない話を盛ってばかりいる」みたいに思われてしまうからです。
あるいはまた、「すごい」と思われるように伝えることが成功してしまって、「自分を売る」ことにうまくいった後に問題が起きるかもしれません。「あなたはこんなことができると言ってたけど、たいしたことないんだね」と思われてしまうかもしれないからです。
自分が誰かに何かを伝えるときには、自分のことを考えるだけではなく、伝える先の相手のことを考えるのが非常に重要になります。別の言い方をするならば「誰かが○○のように自分に伝えてきたときに、自分はその誰かのことをどのように思うか」となります。その発想がないと、とんでもない伝え方をしたり、何かの本に書かれている「コツ」を鵜呑みにして失敗する危険性があります。
と、ここまでは正論です。
「自分を売る」ためにいわばプロモートするということ自体は大切なことだと思います。やたらと話を盛ってばかりいてもまずいですが、謙遜ばかりしていてもうまく伝わりません。
すごい!といえるようなことではないとしても、何かを伝えたいとしたら、その「何か」について十分に理解する必要があるでしょう。普通にはすごいと思われない「何か」だけど、よく理解して、こういう角度から見ればその「何か」というのは光り輝いているといえなくはない、みたいな角度を探すわけですね。そうすれば、特に盛りすぎることもなく、他の人から「へえ!」と思ってもらえるかもしれません。
たとえば採用の面接シーンを考えて「自分に特別な能力がないけれど、自分のことをアピールしたい」とします。そのときに自分にない能力を盛って話したとしても、一瞬はすごいと思ってもらえたとしても、それについて面接官に深掘りされたらすぐにボロが出てしまうでしょう。
でも、自分に実際にある能力の意味をよくよく考えて、実際の具体的事例と合わせて「なるほど、そういう見方もあるのか」というレベルまで深めておけるならば、面接官にも「ふむふむ」と好印象を与える可能性はありますね。
ちょっとしたコツで「すごい」と思われるようなことは、結局は長期的にはメッキがはげて終わりになると思います。その一瞬だけ「自分を売る」ことができればいいならばさておき、継続的、長期的に信頼を勝ち得るような「自分を売る」方法を考えた方がいいのではないかなあと思います。
そしてそれには、自分が実際に持っているもの、実際にできること、実際にやったことを十分に深く観察して理解することが大事だと思います。
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