「スピン」という名前にまつわる混乱は、当の物理学者を悩ませちゃってる問題だね。結論から言えば、スピンは粒子自身の自転運動とは何の関係もないよ。なのでスピンという名前自体が誤解の素なので、何か別の言葉に置き換えるべきだったんだけど、スピンの概念が定着したころには、膨大な記述変更に伴う混乱がありうるので今更変えられなかった、っていうところだね。

そもそもスピンという概念は、量子力学の初期の歴史と関連しているよ。原子の周りにある電子の状態を記述するには、当時は電子殻、軌道、軌道角運動量さえあれば全て決定できると考えられていたよ。ところが研究が進むと、この3つの量だけでは不十分なことが判明したんだよね。ということでどうしたらいいか、という議論の中で考え出されたのが、ラルフ・クローニッヒによるスピンの概念だったよ。クローニッヒは、電子そのものが自転するという4つ目の量があれば、この問題を解決できると考えたよ。また、ほぼ同じころに独立して、ジョージ・ウーレンベックとサミュエル・ゴーズミットもスピンの概念を提唱したよ。

ただ、スピンの概念は当時受け入れられなかったよ。ヴォルフガング・パウリはスピンの概念はあり得ないと主張した代表的な人物の1人で、スピンとは別の量の概念として、2つの自由度を持つ量の概念、今日でいう「量子数」を提唱したよ。皮肉なのはこれから。まず、オットー・シュテルンとヴァルター・ゲルラッハによって、スピンに相当する量が実際に存在することが証明されたよ。そしてウーレンベックとゴーズミットによって、パウリのいう量子数が、実験的に証明されたスピンと同じであると証明されたことだよ!今日では、全く同じ量子数を持つ粒子は2つ以上同じ場所で存在できないという「パウリの排他原理」において、スピンの概念が非常に重要であることも合わせて考えると、パウリにとってはものすごく皮肉だね。

さて、当初はスピンという概念はあり得ないと考えられていて、だからこそスピンという名前のおかしさもそのまま放置されていた、というのが定着の背景にあるわけだけど、そもそもなんでスピンは量子の自転ではないと言われているのか。もしも電子の自転が量子数となるなら、その自転速度は光の速度を超えてしまうからだよ!パウリがスピンの概念を真っ向から否定したのも、こういう明らかにあり得ない性質を含んでいるからで、今日でもその部分は正しいと考えられているよ。なので、クローニッヒが論文を出す際に、スピン以外のもう少し違う名称にしておけば、こういう混乱もなかったんじゃないか、とは言えるけど、ただこれはいろいろわかっている現在の視点での意見だから、ちょっと後出しじゃんけんだね。スピンの概念は量子力学の基礎的な部分を構築中に生まれた概念なので、後世の影響うんぬんなんてのは考えられなかったからね。スピンというのは無数に生まれたもっともらしいアイデアの中で、幸運にもテストにパスした概念ていうところは忘れちゃだめだよね。

2023/05/16投稿
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