回答がものすごく遅くなってしまって申し訳ありません。もう卒業しちゃいましたよね……おわびします。もっとも、数学の勉強は卒業する前だろうが後だろうがいつでもできますので、ぜひ数学を学んでいただければと思います。
さて、ご質問にもあるとおり、結城は数学科出身でもなく、研究者でもありません。一介の物書きにすぎません。もちろん数学は好きですし、大学ではコンピュータサイエンス系の学科でしたから、数学の科目はそれなりには履修しました(赤点を取ったり追試を受けたこともありましたが、それはそれとして)。
私は現在、数学に関わる読み物や書籍を執筆しています。そのためには当然ながら必要な数学を必要なだけ理解している必要がありますし、さらにそれをひとに伝えることができなくてはいけません。そのためには数学を勉強する必要があります。
「どのようなやり方で数学という科目を学んだか」とありますけれど、特に特別なことを行ったわけではありません。基本的には「本を読む」そして「考える」ということにほとんど尽きるのではないかと思います。数学は歴史もありますし、やさしいものから難しいものまで非常に多岐にわたった書籍がたくさんありますので、読む本には不足しませんね。
さて、「本を読んで考えましょう。以上」ではおもしろくないので、私が数学を学ぶ際に大切だと思っていることのいくつかをご紹介します。こうしなければならない、という意味でお伝えするのではなく、数学を専門にやってこなかった人はたとえばこんなふうに数学に取り組むといいかもしれませんという一つの例としてお伝えします。
まず《わかったふりをしない》というのは大切な態度だと思っています。本を読んだときに、自分がわかったかどうかを考えますが、そのときに《わかったふり》をしないことが大切です。自分をごまかさないということですね。理解というのはデジタルではないので「このくらいはわかったけれど、まだしっくりこない」ということもありえます。それを踏まえた上で本を読むことは大切ですね。
その一方で《すべてが理解できなくてもいい》というのも大切です。一冊の本を最初から最後まで完璧に理解できなくてはならないと考えると、あまりにもつらすぎます。それから「理解できないけれど、かっこいい用語だ!」とか「さっぱりわからないけれど、ここにはおもしろそうなことが隠れている!」という感覚も大切だと思っています。まずは「慣れる」みたいなところもかなりあります。先ほどの《わかったふりをしない》と組み合わせるなら、「自分はまだわかっていないということをわかっているなら、すべてが理解できなくてもいい」といえますね。
それから大切な態度として《自分で具体例を作ってみる》のはとてもおすすめです。私が書いている「数学ガール」シリーズという読み物ではそれを《例示は理解の試金石》と表現しています。数学ではしばしば難しい概念がたくさん出てきます。書かれている数式の読み方がわからず難しく感じることや、自分がよく理解していない概念が組み合わされていて難しく感じることはあります。しかし、難しいことは数学の本質ではありません。わかりたいと願うなら、本に書かれている内容の具体例を自分で作ろうとすること。具体的に立ち向かうことは大きな武器となります。
数学に関わる本の中には、数学的にあまり厳密でなかったり、雰囲気だけを伝えるものもあります。それが一概にわるいわけではありません。まずはざっくりと雰囲気だけをつかむことが、学びを進める上で大きな助けになることはよくあります。ただし、ふわっとした内容で「本当にわかった」と誤解してしまわないように注意は必要ですね。
その他にもたくさん、数学を勉強するための態度や心構えはありますけれど、たとえば私が書いている「数学ガール」シリーズをお読みになるのはオススメです。それは私が書いた本の数学的内容はまちがいないという意味ではなく、そこに出てくる登場人物たちの学ぶ態度が、まさに数学を学ぶ態度のよい例になっていることがよくあるからです。
最後にお伝えしたいことがあります。数学科を出ていなくても、数学の研究者でなくても、数学を楽しむことはできます。それは音大を出ていなくても、音楽の研究者でなくても、音楽を楽しむことができるのとまったく同じです。歌を歌えなくても歌を聴いて楽しめるでしょう。もちろん歌を歌えるのもいいですね。歌は下手でも、楽器ができるという人もいるでしょう。数学も同じです。ある人は数学も問題を解くことに情熱を燃やすでしょう。ある人は数学の読み物を楽しむでしょう。またある人はコンピュータグラフィクスで数学的な図形を描くことに魅力を感じるでしょう。自分の時間、自分の能力、自分の興味に合わせて数学を楽しむことは大切だと思っています。私は数学読み物を書くことをこの十数年たっぷり楽しんでいます!
以上、思うところをあれこれ書きました。何かのヒントになればうれしいです。