残っている理由を大まかに説明すると2つです。
①常連のお客さんが付いているから
②償却は終わっており特に追加投資も必要ないので損益分岐点が低いから
施設側から見ると、①はともかく②にはあまりメリットはありません。しかしそれでも長い時を経たそれを文化として残す姿勢のあるレストラン街が僕は好きです。エリックサウスのある八重洲地下街なんかは、まさにこれです。
ターミナル駅ではない、地方都市の例えばショッピングセンターのレストラン街などの方が、よほど常に最新のテナントに入れ替えしようと躍起です。結果的にどこも金太郎飴的な「ファスト風土」化が進みます。新旧が混在するレストラン街は、都会人の特権なのかもしれません。
トレンドが計算し尽くされた最新の業態は、話題になりやすく、すぐに行列もできたりします。しかしそれが3年、5年、と続く保証はありません。むしろそのタイミングでまた新しくリビルドするのが生存戦略です。その点、既に何十年と続いた店は、ある意味安心です。
確かにそういう店に今更行列ができることはあまりなく、お客さんも高齢者ばかりだったりします。特に百貨店の食堂街のそういうお店は、おばあちゃんたちの花園だったりします。しかし、少子高齢化、そして若年層に金銭的な余裕の無い現代において、それは良くも悪くも手堅い商売であるという一面もあります。
僕自身はそういう店を見つけると、あえて入ってみたくなるタチです。おばあちゃんたちに囲まれて、自分が一番若い、なんてこともザラです。これはなかなか良い物です。
そういう店の味は平凡なのか。これは「捉え方次第」とも言えます。僕が気に入って既に何度か行っている和食店は、豆腐を中心とした店です。松花堂弁当に小さな湯豆腐が付いてきます。豆腐は最近の豆乳の味の濃いこれみよがしにおいしい豆腐ではなく、昔ながらの枯れた味の豆腐です。逆に京都の湯豆腐屋さんみたいとも言えます。煮物や焼き物などの料理は、なんだか「仕出し屋さんのお弁当」みたいです。甘辛い椎茸とずいきの焚き合わせみたいなものが当たり前のような顔で主役級を張っています。唐突に乗った小さなエビフライには、パセリとレモンスライスが飾られています。キリンラガーの中瓶と共に、それをゆっくりゆっくり楽しみます。
こんなの今どきなかなか出会えません。あくまで野菜や大豆製品が中心で、特別な食材は何もなく、材料的にもボリューム的にも、もちろん見た目的にも、最近の感覚で言う「コスパ」は最悪と言ってもいいレベルです。しかしおばあちゃんたちは嬉しそうです。きっと色々なことが「ちょうどいい」のでしょう。金銭的にも余裕があるのであろう、その世代が少し羨ましくもあります。
そんな中で僕は、そんな料理にある種の新鮮さを感じています。虚飾を配して誠実であり続けているとも言えますし、進化を諦めて惰性でやっているとも言えます。これは表裏一体です。拗らせすぎと言われればそれまでなのかもしれませんが、僕にとってはとても魅力的なお店です。
東京駅、新宿、池袋……都会にはそういう店がそこかしこに残っています。唐突に現れる異世界への入り口。正直、未来はないのかもしれませんが、それがそこにある限り、大事にしていきたいものだと思います。