いつも楽しく拝読しております。カツのお話が出ていたので油物についてお聞きしたいことがあります。

先日トンカツについてL1-6にかけてのコース仕立てのお話を読みました。おそらくはロースカツのことだと思うのですが、私はロースカツがどうしても美味しく食べられません。一切れなら美味しいんです。でも特にL5-6の部分は一口食べるともうそこで「終わり」になってしまいます。

これは豚の角煮にも当てはまります。油のたっぷりの角煮は一切れが限界です。そしてロースカツも角煮も食べるなら辛子が必須です。

スペアリブの入ったバクテーもスープは好きですが脂の部分は一口が限界です。でも不思議と蒜香蒸排骨など蒸したスペアリブは大好きです。

ラーメンのチャーシューも同じです。必ず残してしまいます。特に油たっぷりでバーナーで浴びっているタイプの厚切りチャーシューは食べると頭の奥がむず痒くなって危険信号を灯すんです。そもそもラーメン自体がが油多くて味も濃いのに脂ギッシュなチャーシューって本当に必要?と思います。

なのでトンカツはヒレカツ一択、角煮やバクテーは脂を除いて肉だけ食べる、チャーシューはパサパサ薄切りチャーシューは大好きですがそれ以外は残してしまいます。

でも豚の脂の香りは大好きなんです。一番好きなのは豚バラをしゃぶしゃぶで食べること。鼻に抜ける豚の脂の香りが最高です。今まで食べたこの香りの最高峰は鹿児島で食べたあぢもりで、最高に美味しかったです。

これは牛肉にも言えます。ステーキの脂は決して食べられません。頭の奥から危険信号が出ます。でもすき焼きで霜降り肉を最初に焼いて食べるのは大好きです。木曽路のしゃぶしゃぶも好きです。

魚は不思議とそこまで危険信号を感じません。大トロは確かに沢山は食べられないけど危険信号を感じるまでではありません。むしろ脂ののった魚は大好きで、脂の香りで言ったら八角、キンキ、金目鯛、赤ムツといったいわゆる高級魚は言わずもがな、アジイワシサンマといった魚も脂が多ければ多いほど美味しいと思います。

しかし今までこの感覚を共感してくれた人はいません。妻も???という感じです。何なら豚や牛は脂が一番と言ってる人もいます。どうも私のこの感覚は少数派のようで、普段は気にしませんがふとした時に窮屈さを感じます。でも本当はみんな無理してロースカツや角煮、チャーシュー食べてない?実は本当はロースカツも角煮もチャーシューもステーキも肉の部分の方が美味しいと思ってない?と密かに思っています。脂の多い肉の方が美味しいって実は幻想じゃない?とすら思っています。これ、変でしょうか?

人が「嫌いなもの」に関して真摯に語るのを読むのは、なんて楽しいんでしょう。この質問文は、そういったものの中でも最高峰のテキストになっていると思います。僕はこの質問に関して特に有効な回答は返せなさそうな気がしていますが、それでもどうしてもこの質問文を多くの人に読んで欲しくて、今これを書いています。

 

さて、明確に答えられることがひとつだけあります。

僕はかつて、「脂がないと肉をおいしく感じられない」という、質問者さんと全く逆の体質でした。ロースカツの赤身部分やヒレカツ、モモチャーシューなんかは、それこそ「無理して」食べていました。鶏むね肉に至っては、憎んですらいたと思います。

だから、脂の多い肉がおいしい、というのは幻想ではない。全人類に対するパーセンテージはともかく、脂がおいしいと言っている人が「無理している」わけではない、これだけは断言できます。

そんな僕も、今では赤身嫌いはすっかり克服しています。第一段階は「レアならイケる」でしたが、今となってはウェルダンもどんとこいです。

これは長年の鍛錬によるものです。人は成長する生き物です。しかし、脂身好きが赤身を克服することは比較的簡単でも、質問者さんのようなその逆パターンはかなり難易度が高いであろうこともまた容易に想像できます。

 

僕はこの質問文を、最初は「自分とは真逆の価値観」として楽しく読み始めたのですが、実は途中でとんでもないことに気付いてしまいました。

それは、登場する全ての料理に「冷め切った」という語句を挿入すると、ほぼ100%の共感になるということです。

冷めた角煮は高級な和食弁当でたまに登場しますが、僕はあれが食べられません。冷やし中華に乗る冷たいチャーシューがモモ以外だと絶望します。霜降りの和牛のしぐれ煮は、冷蔵庫から出してすぐでも何の抵抗もありませんが、ステーキの脂はちょっと冷めただけでもつらいです。しかし脂の乗った焼き魚は、そのひんやりとした脂の舌触り含めて、むしろ冷めてる方がおいしいのではないかまであります。

といった感じで、温度帯をスライドさせるだけで共感の嵐になる。温度の話を出すと、「脂の融解温度」みたいなことと結びつけたくもなりますが、実はそれだけでは説明がつかないことにも以前気付いたことがあります。

これは僕の場合ですが、リエットやパテなどの冷たい脂は平気どころか大好物ですし、ラルドという脂身のみの塩漬けスライスも全く抵抗ありません。これらは、部分的には体温による融解温度への到達で説明できるかもしれませんが、咀嚼時の口中の様子を思い浮かべるに、どうしてもそれだけとは思えないんですね。リエットは口で溶かして食べているわけではない。温度だけではなく分散や厚み、あるいは塩分濃度なども深く関わってくる、かなり複雑なメカニズムなのではないかと想っています。

 

うん、だからどうした? と問われても実際どうもしないんですけど、もし質問者さんが誰かに共感を求めるならば、

「ならばそれの温度が50度下がった状態を想像してみてほしい。それが俺という生き物なのだ」

と、雪女の悲しみみたいなものを演出してみるのはいかがでしょうか。あと、その嗜好を持つ限り、おそらく生涯、肥満とは無縁であることが予想できます。それも誇って良いでしょう。

1年1年更新

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