堀田隆一:明確に回答するのは難しいのですが,初期近代英語期(1500~1700年頃)にかけての時期とお答えしておきます.しかし,もしかしたら最も早い例は14世紀後半辺りからあったかもしれません(The Oxford English Dictionary の記述より). 「do (does, did) +動詞の原形」の構造は「迂言的 do」と呼ばれています.英語史上,最も早くは古英語期(449~1100年頃)に散発的に見られ,中英語期(1100~1500年)にはある程度の頻度で用いられていました.しかし,本格的に発達したのは初期近代英語期です. 迂言的 do は,現代英語では典型的に Do you go? のような疑問文や I don't go. のような否定文で観察されます.古い英語では各々 Go you? や I go not. のように do なしで表現されていましたが,16~17世紀に現代風の do を用いる構造が急速に発達しました. 現代英語では,肯定平叙文で通常の I go. とまったく同じ意味で(つまり,特別な強意を伴わずに) I do go. と迂言的に表現することはありません.唯一可能なのは,I dó go. のように do に強勢を置いて発音し,強意(肯定性や取り立て)を示す場合のみです.例えば,I don't go. ではなく I go. であること,あるいは I come. ではなく I go. であることを表現したい場合に限られます.これが,質問者の言われた「強調を示す do」の用法です. しかし,中英語期以来,とりわけ迂言的 do が本格的に発達することになった16世紀にかけては,do 迂言法は,肯定平叙文において特別な強意を伴わずに用いられることが多くありました.つまり,単純に I go. といって済ませられるような場合に,あえて迂言的に I do go. とも表現できたのです.この場合,両者にニュアンスの違いはほとんどなく,事実上の同義として言い換え可能だということです. 現存する当時の文字資料の上では do に発音上の強勢があったかどうかは分からず,また文脈を精査してもそこに強意が込められていたかどうかは必ずしも判然としないために,この時期に I do go. という文が確認されたとしても,これが特別な強意を示さない I go. との完全同義表現なのか,あるいは現代的な「強調を示す do」の事例なのかを判断することが難しいという事情があります.研究者の主観的な読み込みに左右されてしまいがちなのです. つまり,「強調を示す do」と解釈し得る事例は後期中英語から現われるものの(例えば,OED では14世紀後半の例が初例とされています),それが現代の「強調を示す do」の用法に連なる真正な事例かどうかの客観的な判断はつけがたく,それゆえに「いつから出現したのでしょうか?」の問いにも確信をもって答えることができないのです. 迂言的 do については,私の「hellog~英語史ブログ」より「#486. 迂言的 do の発達」「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」および関連する記事群をご一読ください.(もっと読む)