学研の元々の社名は「学習研究社」です。高度経済成長期、第1次・第2次ベビーブーム世代を主なターゲットとして、当時「学研のおばちゃん♪」というフレーズと歌をTVCMで盛んに流し(「おばちゃん」には育児等で教壇を離れた元教員などが多く転職していたといわれています)、「○年の科学」「○年の学習」という小学生向けの付録付き月刊誌の訪問販売等によって一気に業容を拡大させました。

 一方ベネッセは元は「福武書店」で、紡績から発展した制服業界が戦前からたくさん集まっていた岡山県に複数ある、生徒手帳の会社の一つでした。これも、高度経済成長期、第1次・第2次ベビーブームの中、高校・大学進学率が一気に上昇し受験戦争が激化するのに伴い、通信添削の問題集「チャレンジ」で成功した会社です。

 戦前は、学校制度は男女別・職業別に非常に細かく分かれていました。それをGHQは、「民主化を進め、選挙制度を整え、民主主義を日本で根付かせるには、専門ごとに学校種や教養体系が細かく分かれていたために互いの様子が分からなくなっていた戦前の反省に立って、誰に対しても男女同じ教育を施し、国民共通の知識基盤を整えることが大切だ」と受け止め、当時の最先端の考え方である、小学校・中学校を義務教育とする学校制度一本化を占領地日本で一気に成し遂げました。とはいえ、国会の側でも、単にこの案を押し付けられて受け身で受け入れたのではなく、積極的な議論が行われていました。詳しくは以下をお読みください。

https://mond.how/ja/topics/d5bpg2xv2uo8hfd/7rm5tx8y44gfjpv

 しかしこうした急進的な改革に対しては、当然ハレーションも起こります。例えば、「全家研ポピー」という家庭学習教材の版元、新学社のサイトには、次の文言があります。長くなりますが、引用します。

日本は連合国の統制下で復興への道筋を歩むこととなりましたが、占領政策の一環としてもたらされた教育施策は、徳川期の寺子屋や藩校の普及に根ざす明治以降の高度で充実した近代教育体系を分断させ、代わりに土壌のまったく違う米国の教育プランを移植しようというものでした。たとえばそれは、自動車をつくる原理を一切教えず、修理工を養成するという形の教育でした。

ここに教育現場は激しく混乱し、児童生徒のおそるべき学力低下が始まりました。この危機的状況を眼前にして、小中学校の現場の先生たちは深刻に憂慮しました。そして、児童生徒の学力の低下や心性の堕落をもたらす強いられた政治政策に対し声をあげて反対するかわりに、基礎学力において、戦前の学力水準を維持できるような教材を探し求めておられました。当時は、教科書や教材がなく、先生の仕事は、リュックサックを背負って教材を買いあつめることでした。昭和20年代から30年代、そういう涙ぐましい努力をして子どもたちを教える心ある先生方が、日本中におられました。

こうした先生方の声に真摯に耳を傾け、このままでは日本を担っていく子どもたちにまともな教育をすることはできない、日本の将来は危いと決然として立ち上がったのが、戦前から活躍された文人の保田與重郎先生や、その門下生であった当社創業者の奥西保・高鳥賢司たちでした。

教科書ほどに政治的制約を受けないワークブック等の学習教材の出版という形で、教育現場への支援に果断に挑んだのです。子どもたちの「勉強」、つまりトレーニングによって、からだに原理への態度をおしえこむような教材の出版、それが私たちの人づくり・国づくりの志の形であり、いわば、教育の世界でのたたかいでした。そして、私たちの尊い先生方は、黙って、私たちのつくった教材を採用してくださいました。

https://www.sing.co.jp/corp/message/

新学社の精神 | 会社案内 | 小学・中学の学習教材、「全家研ポピー」の出版販売

新学社の精神ページ。新学社では小学校・中学校教材の発行と販売、「全家研ポピー」ブランドの家庭用教材を発行しています。

https://www.sing.co.jp

 そもそも、受験戦争でみんなが中学校、高校、大学へと同じコースを大量に進む高度経済成長期が到来しないことには、現在のような形態で学習教材出版各社が大きく伸びることはありませんでした。とはいえ、関係者の上のような思いにふれると、歴史は単純ではありません。単に受験戦争でビッグチャンスが来て教材会社が多く生まれた、というようなものではなく、いつの時代でもそうですが、理想や理念のもとで大きな改革が起きると、その狭間で苦しむ人たちの格闘から、新たな考え方や実践が生まれてくる、そういった無数の取り組みの上に歴史が作られていくということが、このことだけでもよくわかります。

 したがって、「戦前から主流だった会社は?」というご質問でしたが、戦前は学校制度が男女別・職業別に細かく分かれ、教師をめざすなら師範学校をめざし、軍隊をめざすなら士官学校をめざし、旧制中学でさえ進むのは一部のエリートで、旧制高校へはわずかな学生しか進みませんでした。それゆえ戦前はまだ受験産業が産業として成立する前の時代であって、自分の学習はもっぱら教科書と問題集と参考書で自習する形のものが主流でした。

 そういった時期から活躍していた会社としては、「チャート式」シリーズの数研出版(発祥は予備校)や「英文標準問題精講」の旺文社(受験雑誌「蛍雪時代」を刊行)など、特に旧制高校への進学をめざす人たちへの受験参考書を出版していた会社、あるいは小学生へのドリルなどを主軸として興った受験研究社や、学年別学習雑誌の出版から始まった小学館などが挙げられます。

https://www.chart.co.jp/corp/00epitome/epitome_index.html

会社の歴史 ―会社のあゆみ― | 会社案内・採用情報 | チャート式の数研出版

チャート式の数研出版。会社案内・採用情報 会社の歴史 ―会社のあゆみ― のページです。

https://www.chart.co.jp

https://www.obunsha.co.jp/company/company_history.html

会社沿革 | 旺文社

旺文社の会社沿革ページです。

https://www.obunsha.co.jp

https://www.zoshindo.co.jp/special/130th.html

増進堂 受験研究社・130周年記念公式サイト

おかげさまで増進堂・受験研究社は、2020年11月3日に創業130周年を迎えました。

https://www.zoshindo.co.jp

https://www.shogakukan.co.jp/company/history

小学館

小学館公式サイト総合トップページ。小学館の会社情報、新刊案内、小学館が運営しているウェブコンテンツ、サービス、その他事業の詳しい内容、採用情報などを掲載。コミック・雑誌・書籍の検索もできます。

https://www.shogakukan.co.jp

2023/11/22投稿
Loading...
匿名で 舟橋 秀晃/FUNAHASHI Hideaki,Ph.D. さんにメッセージを送ろう

利用規約プライバシーポリシーに同意の上ご利用ください

Loading...