小学生の頃から、家にあった古いカメラが気になって、何度か写真を撮っていたのですが、中学生になった時、学校に「写真部」があり、そこで引伸機を使って自分で現像できるのを知って、すぐに入部しましたね。
それから自分でも引伸機を買って自家現像をやってたのですが、白黒写真のお手本を探している内に、私は名取洋之助に行き着いたのですね。戦前日本のグラフジャーナリズムの黎明期あたりに、自分の学ぶべき写真の理想形があると思った。
それで、関連の写真集を買って、古本屋で二束三文で売られていた岩波写真文庫を買い集めて、参考にしていたのですが、その頃にちょうど友人がLIFEの傑作写真集をプレゼントしてくれて、それはホント、ボロボロになるまで何度も繰り返し見ました。そのあたりが、私の写真の基礎になっています。
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原田正路さんという早逝した作家がいて、彼は写真家である以前に名文家で、彼の文章が好きだったので、作品も好きなんだけど、写真集が少ない。数年前、ようやく1冊手に入れましたけど。この場合、私は彼の文章が好きで、写真はその次なんだと思う。でも、やっぱり彼の写真はいい。作品が少ないのが残念ですが。
王福春さんという中国人の写真作家がいて、彼の代表作「火車上的中国人」という写真集は、自分の人生に大きな影響を与えている。中国の鉄道に乗って、その車中の乗客を撮った作品なんですけど、私はこれがやりたくて、しばらく鉄道に乗りまくって写真を撮ってた時期がありますね。ただ、王福春は政府公認のカメラマンだから車中で自由に撮影できた。外国人の私が車中でカメラを向けるのは、相手の合意を取り付けるまでが大変なのもあったけど、乗務員が飛んできて止めるので、それが面倒だった。ただ、そういう試行錯誤の繰り返しで、「別に鉄道の車中でなくてもいいじゃないか」と考え直して、街で撮影するようになるのですが。
昔、ライカにハマったこともあり、田中長徳さんの本はよく買いましたけど、彼のウィーン時代の写真は良いですね。私の都市の撮り方にも大きく影響していると思います。一時期、彼の影響で28ミリのレンズでF8に絞ってパンフォーカスでノーファインダー撮影というのをずっとやってましたけど、今でも似たような撮影はやってますねw
島尾伸三さんと潮田登久子さんの中国関係の本は、たぶん全部持ってますね。彼らの作風…というのか、関心も持ち方は、私の中国への興味に大きな影響を与えている。だから、今でも中国に行くと市場とか、露天商とか、下町の風景とか、子どもたちを撮っちゃいます。
若い頃は、アッジェの何がいいのかわからなかったけど、歳を取るごとに、ジワジワと良さがわかってくる…というのかな。アッジェっぽく都市を撮れないかなぁ…と思って、2年ぐらい前に写真集(リブロポートから出てた、あの分厚いやつ)を買いましたけど、まだ自分の作風に彼の影響は定着していません。似たような作品は撮れても、真似するのが難しい作風だと思う。
去年の暮れからソウル・ライターの作風が気になって、今年に入ってから3冊買いました。ソウル・ライターがブームになってた頃は、結構冷ややかに見ていたけど、ブームが過ぎて、落ち着いて見られるようになった今だと、彼の作品の良さがわかるようになってきた…のかな。冒頭であげた原田正路も窓ガラスについた水滴を撮影しているんですけど、元々そういう題材が好きだったのかも知れない。
最近は、ネットで新しい作家を知ることが多いのですが、Flickrでたまに凄い作家と出会う。
Howard French https://www.flickr.com/photos/aglimpseoftheworld/
という作家がいて、彼の作品は大好きですね。特に中国で撮ったものが良い。
www.flickr.com
Rita Nanniniという作家がいて、ニューヨークの地下鉄を撮影した作品が今年になってから話題になっていたので、ニュースを見て知ったのですが、彼女は上手いなぁ…と思いますね。
ニューヨークの面白さを上手く引き出しているのかな。自分自身がいろんな都市で住んで、都市の面白さに取り憑かれているところがあるので、都市の魅力を上手に写真にできる人に対してリスペクトがあります。
最近の日本の作家だと、山口梓沙さんに注目してますね。
こちらの動画はたぶん100回近く繰り返し見てます。2017年に写真新世紀で受賞して以来、幾つかの展示をやって、その後の活動があまりないようですが。彼女の作品は、何を撮ってるのかよくわからない写真ばかりだけど、「何か」がちゃんと伝えられていると思います。上掲の動画でもそうなのですが、いろいろ質問を受けて、真剣に答えているけれど、何度聞いても何を言ってるのかよくわからない。彼女の写真は言葉で説明できない。言語化しにくい、写真でしか表現できない写真です。
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こうやって並べてみると、私の好みは、名取洋之助の報道写真からスタートして、「具体的かつシンプルに物事を正確に伝える」写真と、都市やそこに生きる人々の魅力をいかに引き出すか…という写真(田中長徳、Rita Nannini、Howard French、王福春、島尾伸三、潮田登久子)、そして報道写真の反動なのか、その対局にある抽象的な写真(原田正路、ソウル・ライター、山口梓沙)という3つの方向性があるみたいですね。
写真は、中国と並ぶ自分の「ライフワーク」で、一生かけて自分の理想とする写真を突き詰めたいと思っています。だから毎日写真のことを考えるし、作品を見たり、撮ったりしている。今後は、ブログやツイッターで、それらの作品をもっと出していきたいな…と考えております。